「戻ってロンと合流してくれ」
ハリーの言葉が耳に響いていた。
『もしもロンが…』
『大丈夫だよ』
さっきの会話を思い出し、自分を必死に落ち着かせながら、ハーマイオニーはもときた道を走っていた。
(きっと大丈夫よ…ハリーも…ロンも…)
例のチェスの部屋に着き、ロンにかけよった。
ロンは額を切っていた。血がたくさんでていたが、傷は深くはないようだった。
パニックになりそうな自分を抑えて、ハンカチでロンの傷口を押さえた。
(どこか打ってるかもしれない…)
まずは、と声をかけた。
「…ロン?…」
「…。」
返事はかえってこない。今度は少し声を大きくする。
「…ロン!」
しかし、ロンはピクリとも動かなかった。
「いや…いやよ」
(どうしたら、いいの)
こんな時に限って、魔法は何一つやくにたたない。
自分を落ち着かせることも、ロンを起こすこともできない。
ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「…ハーマイオニー…?」
「…!」
聞き慣れた声に顔をあげると、ロンが頭をさすりながら、起き上がろうとしていた。
「…ロン!」
「なんで泣いてるんだい?僕死んでないよ」
「もう、びっくりさせないでよ!」
叫びながらもハーマイオニーは笑顔で飛びついた。
ロンはびっくりするやら、恥ずかしいやらで顔を真っ赤にしてあたふたした。
「ハ、ハーマイオニー、僕一応、怪我人なんだけど…///」
と、ボソボソつぶやくとハーマイオニーはハッとして、
「ご、ごめんなさい!」
と、慌てて離れた。
「い、いや、いいんだけど…///」
(心臓が…っ!)
気まずい雰囲気を崩そうとロンは慌てて口を開いた。
「…ハリーはどうしたんだい?」
するとハーマイオニーは軽く悲鳴をあげ、
「そうだった!」
と言うとバッと立ち上がった。
「ハリーが…!」
ハーマイオニーはロンに先ほどの出来事、会話について話しながら鍵の部屋に急いだ。
「…それで、『ロンと一緒にほうきに乗ってふくろう小屋に行ってくれ』って」
走りながら、ハーマイオニーは必死に説明した。
「じゃあ、急いだほうがいいな」
「えぇ。」
鍵の部屋に着き、ほうきに近づく。
「ロン、あなた大丈夫なの?」
すでにほとんど赤く染まっている自分のハンカチを見て、ハーマイオニーは心配そうにいった。
「大丈夫だよ。」
そういうとほうきにまたがった。
「ハーマイオニー、後ろに乗って」
「え?」
「だって、そうしなきゃいけないだろ?」
当然のようにロンは言いきった。
「ほうきに乗ってちゃ、魔法使えないじゃないか。」
「で、でも…」
「早く!」
少し迷った挙げ句、ハーマイオニーは後ろにまたがった。
『しっかり捕まって!』
と言うロンの声に
『え、えぇ』
と、返事をしながら、恐る恐る腕を彼の腰にまわした。
学年一秀才の彼女は、このほうきだけは苦手だった。
『振り落とされては大変』と、ぎゅっとしがみついた。
その途端、ロンは今、どんなに恥ずかしい状況かに今更ながら気付き、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「…ロン?」
彼女の声でハッと我に返り、ロンは地面を強く蹴った。
その後、ふくろう小屋でダンブルドアとすれ違った2人は、マクゴナガル先生に見つかりこってりしぼられたが、それよりもハリーが気になった。
「ハリー大丈夫かしら…」
談話室でも、2人はソファーに向かい合わせに座り、ずっとハリーを待っていた。
「やっぱりすごいよな、ハリーは」
「…えぇ…」
「それに比べて僕は…」
『格好悪いよ。気絶しちゃうなんて』
と言うロンに、ハーマイオニーはきっぱりと言った。
「格好悪くなんかないわ、ロン。あなたがいなかったら、ハリーは次の部屋へ進めなかった。
それ以前に、私とハリーだけじゃ、あそこでチェスに殺されてたわ」
そこで一旦言葉をきり、ハーマイオニーはロンをまっすぐ見つめ、優しく言った。
「あなたは、立派なナイトだったわ。
私達には、やっぱりあなたがいないと」
そう言うと、ロンは少し、元気を取り戻したようだった。
「ありがとう」
END
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