どってーん!
「あいててて…」
シロップは、たった今ぶつけた膝をさすり、顔をしかめた。
「シロップ!大丈夫?」
うららが慌てて駆けつけた。
「シロップ、スケート初めてなんだね。」
「当たり前だろ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。転んだところを見られたのが、相当恥ずかしかったらしい。
ここはとあるスケートリンク場。訳あって、いつもの9人で訪れていた。
「なんでお前は滑れるんだよ」
「仕事で来たことがあったの」
うららはニコッと笑い、手を差し出す。
「じゃあ、私と一緒に滑ろ!」
「は…」
「ほら、捕まって!」
「…。」
シロップは少し戸惑ったあと、そっとうららの手を握った。
「よーし、行くよ〜!」
「は!?おい、ちょ…うわ!」
うららがシロップの手をひいて滑り出した。
危なっかしく滑っていたシロップだったが、少しなれてきたようで、足が動き始める。
「すごい!もう滑ってるよ、シロップ!でも、気をつけてね、スケートはなれてきた頃が一番危ないから…」
うららがそう言った瞬間、シロップが体制を崩した。
「うわ!」
「シロッ…!!」
シロップを助けようと引っ張ったうららも一緒に転びそうになる。
(危ねっ!)
とっさにうららの頭に手を回す。シロップはギュッと目をつむった。
ドサッ
そっとシロップは目をあけた。すると、目の前には、目を白黒させたうらら。
怪我は2人とも無いようで、安心する。
しかし、冷静になったシロップは、今の自分の状況に気づき、一気に真っ赤になった。
うでを片方は氷につき、もう片方はうららの頭の後ろにまわしている。つまり、シロップがうららを押し倒した形になっていた。
(やっば…)
心臓がうるさくなってくる。
「わ、わりぃっ!」
シロップは慌ててうららから離れようとした。
しかし、うららがシロップの服の袖をつかむ。
「う、うらら…?」
「シロップ、…あのね?」
まっすぐとした真剣な瞳で見つめてくる彼女に、シロップは動揺し、パニック状態になる。
心臓がますます早鐘を打つ。
(ちょ、ちょっとまてまて!まってくれ!)
シロップはゴクリとつばを飲み込んだ。
「な、なんだよ、うらら?」
「あのね…」
「…転ぶときは、お尻から転ぶんだよ!」
「…は?」
予想外の言葉に、シロップは脱力した。
「だから、今みたいにこけたら、怪我しちゃうかもしれないから、お尻から転ぶの!」
『わかった?』と優しく問いかけてくる鈍感娘に、シロップはただ、『…あぁ。』と答えることしか出来なかった。
「ちょっと休憩しよっか。私、飲み物買ってくるね!」
「あ、俺もいこうか?」
「え、あ、ううん。大丈夫!」
そう言うと、うららはそそくさとスケートリンクから出て行った。
「はぁ…。」
シロップは大きくため息をついた。
顔が、熱い。
心臓が、うるさい。
さっきの光景が、頭から離れない。
(俺、嫌われたかも…)
慌てたように出て行ったうららを思い出し、シロップは頭を抱えた。
うららは、早歩きで自動販売機に向かっていた。
そして、自動販売機の向かいにあったベンチに腰かけ、胸を押さえた。
(び、びっくりした…。)
うららもシロップと同じように、混乱していた。
(心臓が…ドキドキしてる)
(どうしよ…シロップにどんな顔したらいいのかな…?)
(う〜…役作りよりも難しいよ〜!)
そんな2人を見守る7つの影。
「やるわね〜、シロップ!公衆の面前でうららを押し倒すなんて!」
「くるみ…。」
ニヤニヤと笑うくるみを見て、かれんは苦笑いする。
「でも、そろそろ、お互いの気持ちに気付いたんじゃないかしら。」
こまちが心底楽しそうに言う。
「え、どういうことですか!?」
「やっぱりあんた、何も気づいてなかったのね…」
やはり鈍感なのぞみに、りんが突っ込みを入れる。
「え〜!何?どういうこと〜?」
頭に疑問符を浮かべたのぞみに、ココが微笑んだ。
「つまり、」
春はもうすぐそこまで来てるってことさ
END
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