(11/19)page
春はすぐそこ


どってーん!

「あいててて…」

シロップは、たった今ぶつけた膝をさすり、顔をしかめた。

「シロップ!大丈夫?」

うららが慌てて駆けつけた。

「シロップ、スケート初めてなんだね。」

「当たり前だろ!」

顔を真っ赤にして叫ぶ。転んだところを見られたのが、相当恥ずかしかったらしい。

ここはとあるスケートリンク場。訳あって、いつもの9人で訪れていた。

「なんでお前は滑れるんだよ」

「仕事で来たことがあったの」

うららはニコッと笑い、手を差し出す。

「じゃあ、私と一緒に滑ろ!」

「は…」

「ほら、捕まって!」

「…。」

シロップは少し戸惑ったあと、そっとうららの手を握った。

「よーし、行くよ〜!」

「は!?おい、ちょ…うわ!」

うららがシロップの手をひいて滑り出した。
危なっかしく滑っていたシロップだったが、少しなれてきたようで、足が動き始める。

「すごい!もう滑ってるよ、シロップ!でも、気をつけてね、スケートはなれてきた頃が一番危ないから…」

うららがそう言った瞬間、シロップが体制を崩した。

「うわ!」

「シロッ…!!」

シロップを助けようと引っ張ったうららも一緒に転びそうになる。

(危ねっ!)

とっさにうららの頭に手を回す。シロップはギュッと目をつむった。

ドサッ







そっとシロップは目をあけた。すると、目の前には、目を白黒させたうらら。
怪我は2人とも無いようで、安心する。
しかし、冷静になったシロップは、今の自分の状況に気づき、一気に真っ赤になった。
うでを片方は氷につき、もう片方はうららの頭の後ろにまわしている。つまり、シロップがうららを押し倒した形になっていた。

(やっば…)

心臓がうるさくなってくる。

「わ、わりぃっ!」

シロップは慌ててうららから離れようとした。
しかし、うららがシロップの服の袖をつかむ。

「う、うらら…?」

「シロップ、…あのね?」

まっすぐとした真剣な瞳で見つめてくる彼女に、シロップは動揺し、パニック状態になる。
心臓がますます早鐘を打つ。

(ちょ、ちょっとまてまて!まってくれ!)

シロップはゴクリとつばを飲み込んだ。

「な、なんだよ、うらら?」

「あのね…」

























「…転ぶときは、お尻から転ぶんだよ!」





「…は?」

予想外の言葉に、シロップは脱力した。

「だから、今みたいにこけたら、怪我しちゃうかもしれないから、お尻から転ぶの!」

『わかった?』と優しく問いかけてくる鈍感娘に、シロップはただ、『…あぁ。』と答えることしか出来なかった。








「ちょっと休憩しよっか。私、飲み物買ってくるね!」

「あ、俺もいこうか?」

「え、あ、ううん。大丈夫!」

そう言うと、うららはそそくさとスケートリンクから出て行った。

「はぁ…。」

シロップは大きくため息をついた。
顔が、熱い。
心臓が、うるさい。
さっきの光景が、頭から離れない。

(俺、嫌われたかも…)

慌てたように出て行ったうららを思い出し、シロップは頭を抱えた。








うららは、早歩きで自動販売機に向かっていた。
そして、自動販売機の向かいにあったベンチに腰かけ、胸を押さえた。

(び、びっくりした…。)

うららもシロップと同じように、混乱していた。

(心臓が…ドキドキしてる)

(どうしよ…シロップにどんな顔したらいいのかな…?)

(う〜…役作りよりも難しいよ〜!)



そんな2人を見守る7つの影。

「やるわね〜、シロップ!公衆の面前でうららを押し倒すなんて!」

「くるみ…。」

ニヤニヤと笑うくるみを見て、かれんは苦笑いする。

「でも、そろそろ、お互いの気持ちに気付いたんじゃないかしら。」

こまちが心底楽しそうに言う。

「え、どういうことですか!?」

「やっぱりあんた、何も気づいてなかったのね…」

やはり鈍感なのぞみに、りんが突っ込みを入れる。

「え〜!何?どういうこと〜?」

頭に疑問符を浮かべたのぞみに、ココが微笑んだ。

「つまり、」








春はもうすぐそこまで来てるってことさ







END