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風邪ひきさん


「うららが倒れたって本当か!?」

ナッツハウスに勢いよく飛び込んできたシロップをココが
『静かに!』と、制した。

「うららは…っ大丈夫なのか!?」

「ただの風邪だよ。今ソファーで寝かせてる。」

「そ、そうか…」

シロップはほっと安堵の表情を見せた。

「ただ、仕事で疲れがたまってたみたいなんだ。きっと、うららのことだから、つらくても我慢してたんだろう。」

「…。」

「のぞみ達から聞いたんだけど、うららのご家族は今旅行に行ってるらしくて、家に居ないんだ。」

「えぇっ!?じゃあどうすんだよ!」

「マネージャーとはなしてね、3日間、うららを泊めることになったから。」

「はぁぁあ!?」

ココの発言にシロップは転びそうになる。

「シロップ、うるさいわよ!早く自分の部屋片付けて!」

「お前だってうるさいだろうが!
…ってなんで部屋?」

突然現れたくるみの言葉に、シロップの頭は疑問符でいっぱいになる。

「そんなの決まってるじゃない!うららを寝かせるのよ!」

「俺の部屋に!?お前の部屋でいいじゃねーか!」

『俺は男だぞ!』と、叫びそうになる。

「だって私、ココ様とナッツ様のお世話があるからいそがしいもの。うららはシロップが看病してあげて!」

「なんでだよ!」

「いいじゃないか、シロップ。」

ココがくるみに助け船をだす。

「うららも、シロップの方が同い年だし、最近仲良いし、気が楽だろうしね」

「よくねーよ!」

シロップは真っ赤になって叫んだ。

「いいから、早くうららを運んであげて。熱あるんだから!」

「なんで俺「アンタ運び屋でしょう!?」

「・・・。」

くるみのツッコミにシロップはぐうの音もでない。

「…ってか、俺はどこで寝れば…」

「バカね、もとの姿になればいいでしょ」

(一緒に寝ろってか!?)

シロップの心の叫びがくるみとココに届くことはなかった。




高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、シロップはうららを自室へ運び、とりあえずふとんに寝かせた。
(どうすっかなぁ…)

ポリポリと頭を掻きながら、ベッドの端に座り、うららに目をおとす。
彼女の顔をこんなにじっくりみたのは初めてだろう。
白い肌、赤い唇、熱のせいか、少し色づいている頬。綺麗な金色の髪。そして、今は閉じられている吸い込まれるような美しい瞳。


シロップは、ごくりと喉を鳴らし、目をそらした。
ドキドキと心臓がうるさい。
シロップは、お絞りと洗面器を取ってこようと、部屋を出た。

(俺も、熱あるかも)



うららのおでこにおしぼりをおき、シロップはベッドにもたれて目をとじた。





夕方の5時。
シロップが起きると、うららは苦しそうに咳をしていた。

「うらら…!大丈夫か?」

「ケホッ、ケホッ…シロップ…?」

とろんとした目でこちらをみてくる。

「私…ここは…?」

「お前、風邪ひいて倒れたんだよ。ここは俺の部屋。」

「そっかぁ…。コホンッ」

「大丈夫か?」

「うん…ありがと…」

いつもの彼女からは想像もつかない弱々しい声に、シロップは胸が痛んだ。

「今薬持ってきてやるから!」

「ごめんね…シロップ…」









薬を飲んだうららは咳も止まり、だいぶ楽になったようだ。

「シロップ、ありがとう」

「いいって、いいって!それより、早く治せよな。」

うららは微笑んだ。

「でも、たまには風邪もいいね」

「はぁ?なんでだよ。苦しいんじゃねーのかよ?」










「だって、なんだかシロップがすごく優しいんだもん」

「・・・・〜っ!?」

(こ、こいつはぁ〜!反則だろ!?)

「な、なな何言ってんだよ!」

「あはは、シロップ、照れてるの?」

「照れてねーよ!」

「顔真っ赤…!?ケホッ!」

「!お、おい!?」

慌ててうららに駆け寄る。

「大丈夫…」

「大丈夫じゃねーよ!もう寝ろ!」

「う、うん…」

申し訳なさそうに、うららは横になった。

「…ね、シロップは寝ないの?」

「…ぅえっ!?お、俺は…」

思わず口ごもる。

「一緒に寝ようよ、シロップ」




・・・・・。


「…はぁぁあ!?お前、何言ってるかわかってんのか!?」

少し…いや、かなり動揺したシロップは、またこけそうになる。

「だって…風邪ひいちゃうよ?」

「…お前、無防備すぎ!」

そういうと、うららはキョトンとして、『だってシロップだもん』と言った。

(それって、全く意識されてないってことか…?)

シロップは軽くショックをうける。

「人間は…ちょっと恥ずかしいから、もとの姿で…ね?」

と、うららに頼まれれば、断るわけにもいかない。
ポォン!と音がして、シロップはもとの姿に戻った。

そして、ベッドの隅で横になった。

「こっちおいでよ、シロップ」

「それはできないロプ!」

「どうして?私のこと、嫌い?」

「そ、そんなわけないロプ!ただ…」

「ただ…?」

「き、緊張するロプ…」

顔を赤くしていうシロップに、うららは微笑んだ。

「じゃあシロップ、私の話、聞いてくれる?」

「ロプ?…聞くロプ」

うららはにっこり笑って、ゆっくり話し始めた。

「私のお父さんとおじいちゃんが、今旅行でいないのは知ってる?」

「知ってるロプ」

「私、ずっと寂しかったの。帰ってもだれもいなくて…。みんながいなくなっちゃう夢もよく見るようになっちゃって…」

「・・・。」

シロップは真剣な目でうららを見つめる。

「だから、目が覚めたとき、シロップがいてくれて嬉しかった…」

「うらら…」

シロップは、ちょこんとうららの手を握った。

「シロップ…?」

「うららは一人じゃないロプ。シロップがいるロプ。」

「・・・!」

シロップは、うららに微笑んだ。

「だから、安心して眠るロプ。」

「…うん。ありがとう、シロップ」


2人?はそのまま眠りについた。
まさか、くるみが2人の寝顔を撮ったことも知らずに。




END