(なんでこんなことに…)
シロップは困り果てていた。
右手には、泣きじゃくる小さなツインテールの女の子。
黄色の目、黄色の髪をした少女は、紛れもなく、『アイツ』だ。
(なんで…)
30分ほど前。気が付いたら、シロップは外にいた。ワケもわからずうろうろしていると、泣いている女の子を見つけたのだ。
しかも、見間違えるはずがない。
その少女はあの春日野うららだったのだ。
(なんでうららがこんなに小さく…?いや、それより…)
「…おい、大丈夫か?」
シロップは少女に声をかける。
だが、女の子は泣きやまない。
「…どうしたんだ?」
シロップが聞くと、その子はしゃっくりをあげながら、
「おとうさんと、おかあさん、が…い、いなく、なっちゃっ、たの…」
と、言った。
「おかいもの、に、一緒に、き、きてたのに!」
『わぁ〜』と泣き出した少女の頭をシロップは優しくなでた。
「もう泣くな!父さんと母さん探してやっから!」
すると、少女は少しずつ泣き止み、落ち着いてきたようだった。
背中をポンポンと叩き、シロップは言った。
「よし、じゃあ、いくか!」
「うん!」
そういって、うららはシロップの手をキュッと握った。
「…ところで、お前、名前は…」
「うららだよ!かすがのうらら!」
「…そうか。」
やはり、予想通りの答えが返ってきた。
このうららは四、五歳くらいだ。
と、いうことは、ここは今より八年くらい前ということだ。
なぜ来てしまったのだろう。
「おかあさんね、じょゆうさんなの!だから、おしごといっつもいそがしいんだけどね、きょうは、みんなでおかいものにきたの!」
「…そうか」
「でもね、うららおかあさんにはテレビであえるから、さびしくないの。おとうさんとおじいちゃんもいるし。だけど…」
そこで、うららの顔が少し曇った。
「いまは、さびしい…ひとりぼっちだもん」
(一人ぼっち…)
その言葉を聞いて、シロップは昔の自分を思い出す。
一人ぼっちがどれだけ寂しいか、シロップはよく知っていた。
「大丈夫だよ。
今は俺がいるだろ?
お前はひとりぼっちなんかじゃない。」
するとうららはにっこり笑った。
「ありがと、おにいちゃん!」
その後、うららの両親は見つかった。
シロップは何度もお礼を言われ、どぎまぎしていた。
「おにいちゃん!またね〜!」
「…あぁ!また、な!」
「…ロップ!」
「…ップってば!」
「シロップ!」
俺はパチッと目を開けた。
(夢…か。)
目の前にはうららただ一人が座ってじぃっと俺を見ていた。
「こんなところで寝たら、風邪ひいちゃうよ?」
「あぁ。わりぃ。…他のみんなは?」
「みんなはお買い物!シロップ寝てたから、起こさなかったんだって」
「で、お前は?」
「私は、お芝居の練習!」
そういって、台本は見せてにっこり笑った。
「…ふーん。
…あのさ…」
「なあに?」
「お前は、一人ぼっちなんかじゃない。のぞみ達もいるし、…俺もいるから。」
うららはキョトンとして、シロップを見た。
(やっぱり、わかるワケないか…夢だし。)
うららはシロップをじっと見てから、またニコッと笑って
「ありがとう」
と言った。
「じゃあシロップ、お芝居の練習につきあってくれる?」
「えぇ〜!?…しょうがねぇなぁ!」
うららはクスッと笑った。
「…ありがとう、
シロップ」
END
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