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夏祭り


「みんな!お祭り行こーよ!お祭り!」

それはのぞみの一言で始まった。





夏祭り





「…だからって…
なんで俺まで浴衣なんだよ!?」

深緑の浴衣を着たシロップは声を荒げた。

「いいじゃないか、せっかくこまちが持って来てくれたんだ。」

「似合うよ、シロップ」

アハハと笑うココと相変わらず本を読むナッツにイライラしながら、シロップはふと疑問を口にした。

「…あいつらは?」

「のぞみ達か?浴衣を着に家に帰ったよ。もうすぐ戻るはずだけど?」

「…ふーん」






「お待たせー!」

5人がぞろぞろと入ってきた。
桃色、赤色、黄色…
それぞれ自分にあった色を着ている。


「みんな、すごく似合うよ。」

「いつもとはまた違った印象だな。」

「えへへ!でしょ?」

そんな会話をのぞみ達がしているなか、うららがあることに気付いた。


「あれっ?シロップ…
浴衣なんですね!」

「…っ」


うららの言葉で他の四人も気づく。

「わぁ〜!本当だ!」

「へー!意外といけるじゃん。」

「持って来てよかったわ。」

口々にそういわれ、慌てる。

「お、お前らなぁ…!」

「すごく似合いますよ、シロップ♪」


「…っ!」

うららの言葉でシロップの顔がみるみる赤く染まった。

(お前の方が似合ってるっつーの!)

黄色の布地にひまわりの浴衣を着たうららをチラリと見ながらボソボソと呟いた。

「え?何ですか?」

「な!なんでもねぇよ!
それより!
祭り、早くいくぞ!」

「?はい…
(シロップお祭り好きなのかな?)」

そんな二人の様子をみんなは微笑みながら見ていた。

「わぁぁあ!」


鳴り響く太鼓の音

明るく光る提灯

たくさんの人



のぞみ達は目を輝かせる。

「焼きそばだぁ!」

「いきなり食べ物…?」

のぞみに苦笑するりん。

「あ!りんごあめもある!行こ、ココ!」

「え、あ、あぁ。」

と、のぞみはココを引き連れて屋台の方へと向かった。

「あの太鼓はとても大きいな」

ナッツがポツリと言った言葉を聞いて、こまちがにっこり笑った。

「むこうで叩かせてもらえるみたいですよ?
行ってみましょうか。」

「あぁ。」

そんな会話をしながら、こまち達も闇へと消えた。

「私達も、どこかに行きましょうか?」

「えぇ。あ…シロップとうららは、二人でまわってきたら?」

くるみがニコニコ笑って言う。

「え…シロップと二人で、ですか?」

「そうね、たまには…いいんじゃない?」

りんにいわれて、うららもニコッと笑った。

「そうですね、久しぶりに二人でお話ししてきます!」



「ふ、ふたりで!?」

みんなを待っていたシロップは、うららの言葉を聞いて素っ頓狂な声を上げた。

「うん!りんさんたちが」

「…。」

(コイツ全く俺のこと意識してねーな…)

シロップは少しがっかりして顔を逸らした。

「どうかしましたか?」

「…え、い、いや…」

『何でもない』と言うと、うららは微笑んだ。

「それじゃあ行きま…?」

いいかけて、うららの目線は下にいった。
つられてシロップの目線も下に。

「「…!!」」
「…男の子?」

うららの浴衣を、5、6歳の男の子がつかんでいた。

「おい、お前、どうしたんだ?」

「・・・。」

男の子はシロップをじーっと見つめ、
「ふいっ」
と、顔を背けた。

「なっ…」

「シロップ、そんなこわい顔しちゃダメだよ。」

そういうと、うららはしゃがんで男の子に目線を合わせ、笑顔で優しく聞いた。

「おなまえは?」

すると、さっきとはうってかわって、男の子は素直になった。

「…なつめ そうた」

「そうたくんっていうんだ。なまえ、ちゃんといえてえらいね」

男の子はコクリと頷いた。

(何なんだよ、この態度の違いは!)

シロップはイライラと宗太を睨んだ。
すると、なんと宗太が睨み返してきた。
2人の間に火花が散る。

それに気付かず、うららは宗太に問う。

「そうたくん、お父さんかお母さんは?」

「いなくなっちゃったの。」

「…迷子かよ。」


そのシロップの言葉で、宗太が泣き出した。

「シロップ!」

うららに咎められて、シロップは黙った。

(なんだよ、宗太宗太って)

どんどん不機嫌になっていくシロップ。


気が付くと、宗太はうららに抱きついて泣いている。
と、うららの肩越しに宗太を見ると、
ニヤリと笑ってシロップを見ていた。

(コイツ…!)



「じゃあ、私達でそうたくんのお母さん探そう!」

「・・・はぁ!?」


「そうたくんのおかーさーん!いませんかぁー!?」

宗太の母親を探し始めて三十分。
うららはずっと宗太を抱いて呼び続けた。

「警察に預けたほうがいいんじゃないのか?」

「そんなのかわいそうじゃないですか!」

後ろを歩いていたシロップに向かってうららは言言った。

シロップは宗太を睨んだ。宗太も睨みかえす。
2人の間に火花がちる。

(クソッ!)

シロップは舌打ちした。宗太がいる、うららの腕のなかは、いつもならシロップの特等席だ。
今日だって。
なのに…

「…あーもぅー!!面倒くせえ奴だな!」

シロッップが叫ぶと、宗太が泣き出した。

「そうたくん!泣かないで〜」

うららまで泣きそうになりながら、必死に慰める。

シロップはイラつきながらも、少し罪悪感を感じていた。

「あのさ…なんだ…その…悪かったよ。だから…」







「…乗れよ。空からななら見つかるかもしんねえ」

「…!シロップ!」

「いいんだよ。ちょっと待ってろ」













夜空を、うらら、宗太を乗せたシロップがとんでいた


「うわぁ!僕、そらとんでる〜!すごい!」

「気持ちいい風だね!そうたくん」

「うん!…うららちゃん、あの兄ちゃんは?」

「え?えーっと、お家に帰ったと思うよ?」

「ふーん、お礼言おうと思ったのに。」

うららはクスっと笑うと
『きっとまた会えるよ』
と言った。




「あ!ママ!」

突然宗太がいい、シロップは近くの森の中に宗太とうららを下ろした。

そして自分は空にいったん戻って宗太にバレないように、人間の姿に戻ってきた。

「…よ、よう!」

「あ、さっきの兄ちゃん!」

宗太はとたとたとシロップの方へかけていき、
コソッと言った。






「頑張れ、兄ちゃん!お似合いだよ!」

「んな…っ!?///」

宗太はニヤリと笑っている。
シロップは真っ赤になってさけんだ。


「うるせーっ!///
早く母さんのところにいけ!またはぐれるぞ!」

宗太は
『2人ともありがとう〜!お幸せに〜!』
と言って走っていった。



「シロップ」

「あ?」

「やっぱり、優しいんだね!」

ニコニコと笑ううららから、シロップは目を無理やりそらした。

(どっちが…)

「シロップ」

「なんだよ?」





「ありがとう」







打ち上げ花火に照らされた少年の顔は真っ赤で、うららはクスクスと笑った。

「さぁ!お祭りいこうよ!
…今度は2人で…」

『ね?』と笑う彼女にあきれながらも、

「あぁ」と答えるシロップであった。










夏祭り

(…浴衣、すっげー似合ってる。)
(本当に?ありがとう!)