最近、仕事が忙しい。(そのくせ、松本はサボっている)
非番なんてとれやしないし、むしろ毎日残業の日々。
‥‥最後に雛森と出かけたのはいつだったか。
‥‥最後に雛森を抱きしめたのはいつだったか。
‥‥隊長としてでなく、恋人として雛森に会ったのはいつだったか。
会いたい
会いたい
会いたい
‥‥触れたい
雛森に触れたくて、抱きしめたくてたまらない。
ただ‥本人にはそこまではっきり言わないけれど。
それでもいつだって、雛森のことを想ってるんだ。
『隊長〜!雛森が明日、非番取るそうですよ!』
『‥‥‥‥』
約四時間にわたる“書類運び”から戻ってくるなり、己の副官はそう言った。
『‥‥松本。この状況で、俺に非番が取れると思うのか‥?』
山と積まれた書類。(言っとくが松本の机にも、だ)
思い切り睨み付けたが、松本はちっちっと指をふった。
『‥そこでですよ!雛森、明日手伝いに来てくれるんです!』
『‥はぁ!?』
雛森だって、最近は現世任務で忙しかったはず。(これも、会えなかった理由の一つである)
それが一段落し、やっと取れた非番にも関わらず仕事をする‥それも、他の隊の仕事を。
『‥松本!てめえ、雛森に無理させんじゃねぇよ!』
あいつは頼まれると断れない性格だ。大方、松本が無理矢理(サボるために)頼み込んだに違いない。
しかし。
『やだ、たいちょ〜♪雛森が心配なんでしょうけど、手伝いに来るって言い出したのは雛森なんですよ〜?』
『何?』
驚いた顔をすれば、松本が少し呆れたような顔でこちらを見た。(何で俺が松本に呆れられるんだよ!)
『隊長‥‥普段は散々、雛森に向かって鈍いだの鈍感だの言ってますけど‥、隊長も案外鈍いんじゃないんですかぁ?』
『あぁ?』
いきなりそんなことを言われても、意味わかんねえよ。
すると、松本が一言。
『っていうかこの場合、“女心が分かってない”ですかね?』
『女心?』
『‥そうですねぇ‥雛森に明日きいてみたらどうですか?』
ニマニマと笑いながら松本は言った。
『‥それに隊長、雛森に会いたかったんでしょう?』
『‥‥!』
‥確かにそうだ。会いたくてたまらない‥けど、俺は雛森に無理させたくないわけで‥。
第一、その“女心”ってなんなんだ‥?
‥結局その日もまた残業で、自室に帰ってきたのは夜中だった。
雛森には、会えなかった。
――――‐‐‐
‥翌朝、かなり早い時間に目を覚ました。書類を早く片付けたいというのもあるが、雛森に早く会いたいという思いが強かったから。
来る時間なんて、分からないのに。足は動いた。
そして執務室が見えてきたところで、止まる。
‥霊圧。これは、雛森のー‥‥。
『‥日番谷くんっ!』
久々の笑顔。
『‥‥雛森‥』
雛森が駆け寄ってきた、その瞬間。
愛しさが、こみ上げた。
まだ人が少ないとはいえ、廊下だというのも忘れて雛森の腕をひく。
思い切り、抱き寄せた。
『ひ、日番谷くん‥っ!』
雛森の耳が真っ赤になっているのが見える。このまま気にせず抱きしめておこう。
『だ、だめっ‥!』
‥そう思ったが、雛森が思い切り押し返したために、それは叶わなかった。
ちょっと(いやかなり)受けた精神的ショックを隠してムッとした顔で雛森を見れば、
『だ、だって‥今、人が‥』
と呟く。
‥俺は、虫除けになるからいい気もするけどな。
とりあえず、執務室の中に入ってしまうことにした。
雛森を先に入れ、俺も入って扉を閉める。
『もう、日番谷くんってば‥』
なんて言う雛森が可愛くて再び抱きしめようとしたら、また止められた。
『‥お仕事たまってるんでしょ?先に早く終わらせちゃおう?』
笑顔で言われてしまい、正直かなわなかった‥。
結局、真面目に書類に取り組みだしたのだが。昨日、松本が言った言葉を思い出した。
‥そういや、“女心”がどうこうって言ってたよな‥?
書類をしながら雛森に、珍しくも自分から声をかける。(普段は松本から話しかけてくるか、松本がいないかだ)
『‥なあ、雛森‥。なんで今日、手伝いに来てくれたんだ?』
そう言っただけなのに。
『‥‥えっ!?』
雛森は顔をさっきのように赤くしながら返事をした。
『‥?おい、雛森‥どうしたんだよ?』
『‥‥‥』
赤くなったままうつむく雛森。
『‥‥った‥?』
何か呟いた。
けど、聞こえない。
もう一度雛森が呟く。
『さびし、かった‥?』
『‥!』
雛森の言おうとしていることが分かった気がした。
『あのね、あたし‥ずっと、日番谷くんに会いたくてね‥』
『でも、日番谷くん毎日残業で疲れてそうで‥お部屋にもいけなくて、ね‥?』
『そしたら、乱菊さんが‥』
『‥雛森』
雛森の傍へと移動する。
‥難しいことなんかじゃなかった。雛森も俺も、同じ想いを抱いてたんだ‥‥。
愛しさのまま、顔を近づけた‥‥
‥カサリ。
『‥‥‥。』
目の前には、真っ白な紙。
雛森が紙‥書類の向こうから顔を覗かせ、慌てながら言った。
『ご、ごめんね日番谷くんっ‥!あたし今ちょっと‥!心臓が、爆発しそう‥っ』
『‥俺だって、持たねえよ‥』
‥雛森にとっては残念なことに、今回ばかりは待てない。
悪い、と呟き口づけようとしたら、再び書類が当たった。
‥けれど、今度は‥柔らかい。
『今はこれで、我慢して‥?』
頬を染めながら言う雛森の言葉で、書類ごしに口づけられたのだと、分かった‥‥。
『‥無理、逆に我慢できない』
『ふぇぇ!?』
書類ごしのキス。
お前にとっては牽制のキス。
‥‥俺にとっては誘いのキス。
‐fin‐
とーっても可愛らしくてすてきな作品ですよね!
飴ころ様、ありがとうございました!
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