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甘い甘いかき氷より、こんぺいとうより?


『ひっつんとももちーって、仲いいね♪』






十番隊貴賓室。

かき氷をもらいにやって来た十一番隊副隊長、草鹿やちるの無邪気な声が舞った。


その言葉に一瞬きょとんとしてから笑顔で頷いたのは、遊びに来た五番隊副隊長、雛森桃である。


『だって、あたしと日番谷くんは幼馴染みだもん!』

なんだか他の人にそう言ってもらえると嬉しいなぁ、なんて雛森は頬を緩ませる。





『ね?日番谷くん!』





開け放たれている引き戸ごしに執務室の方に向かって声をかけた。







現在、十番隊執務室にいるのは日番谷ただ一人。(ちなみに乱菊は、昼間から京楽と呑んでいる)




昼休みなので仕事には手をつけていない‥代わりに、不機嫌そうにかき氷を両手に持っていた。
やちるが要求してきたかき氷である。


‥本来ならせいぜい氷を出してやるまでしかしない(あとは好きにしろ、という感じの)日番谷だが、今回はたまたま雛森もいた。わざわざかき氷を作ってやったのは、雛森の為とも言える。(というか実質そうだ)







‥日番谷は雛森に想いを寄せている。それは瀞霊廷内で有名な話であり、もちろんやちるも、総隊長でさえ知っている事実だ。


しかし、先ほどのやちるへの返事ぐあいからして‥雛森の方は全く日番谷のことを意識していないのだろう。








『‥‥‥』



複雑な気分で貴賓室へと入ってきた日番谷は、雛森とやちるの前にかき氷を置いてため息をつく。







『ありがとう、日番谷くん!一緒に座ろう?』


そんな日番谷の心情など知るよしもない雛森は、日番谷の腕を引っ張り隣に座らせた。



『ぉわっ‥!ひ、雛森っ』


『ほらほら、遠慮しない!』



‥‥そんな二人のやりとりを見ながら、やちるが一言。


『ひっつんとももちーって、昔からそうだったの?』


そう言ってから、机の上にあったこんぺいとうをかき氷の上にザーッと載せる。(練乳と絡み合って、恐ろしく甘そうだ)



『“そう”って?』








『ももちーの方がひっつんをリードしてたのかな、って』







『おい』



日番谷は、その激甘なかき氷に対してつっこむことも忘れて反応した。







『リード‥?』





雛森が意味を考えている間に日番谷が返答(?)する。


『別にそういうわけじゃねえよ!‥だいたい男が女に引っ張られるとか、かっこ悪いだろうが!』




『でも今引っ張られてたじゃん』





『!今のは意味がちが‥』

‥いや、結局同じなのか?という考えが頭を過り、日番谷は言葉をとぎらせた。








しかもそこに、雛森の爆弾発言。








『あっ、そういうことかぁ‥!‥確かに昔は、あたしが日番谷くんを引っ張ってたよね!ほら、一緒にお風呂入った‥』





『言うなぁぁぁ!!!』






『今も一緒?』


やちるがぴょんと身を乗り出した。




『んなわけあるかっ!!』


日番谷が顔を真っ赤にして叫ぶ。




『え〜でもひっつん、昔は一緒だったんでしょ♪ももちー、いつまで二人で入ってたの?』



『えーっと‥‥あたしが真央霊術院に入学したときには一人ずつだったから‥五十年くらい前まで、かな?』



『けっこう最近だね!』


長く長く生きる死神の感覚では、そんなものである。







『じゃあじゃあ、夜にお部屋に遊びに行ったりしないのー?』


『なんで夜限定なんだ』








『だって、眠れなくなった時に一緒に寝たりとかできるよ♪』




無邪気に笑うやちる。やちるの場合は自分と剣八を基準にして考えているのだろうが‥。






日番谷とて、(見た目は小さくても、実年齢が百を越えてようとも)年頃の男子。

想い人である雛森と一緒に寝るなんて‥ぶっちゃけ、そこは色々と訳が違う。










『日番谷くんが隊長さんになってからは、一緒に寝てくれなくなっちゃった‥かな』


なんでそこで寂しそうに言うんだ雛森‥と日番谷は思いつつ、耐えきり続けた隊長になる前の自分を誉め称えた。









『ふ〜ん‥そういえば、ももちー、かき氷食べないの?』


『‥‥え?やだっ、かき氷溶けちゃう!』


雛森が声を上げた。やちるは(こんぺいとうと共に)かき氷を大方食べていたが、雛森は途中からすっかり忘れていたようだ。(雛森のために作ったのに‥)




焦った雛森は、急いでかき氷を持ち上げようとした。

『わ〜っ!容器から溢れそう‥っ、ふわっ!』




勢い余って、容器が飛んだ。



『‥あ‥』





雛森の手から離れたかき氷が、宙を舞った。




そしてそれは重力に逆らえずに、まっすぐ雛森に‥。








べちゃっ。








‥かき氷を頭に受けたのは、雛森を庇った日番谷だった。







『ひっ、日番谷くんっ‥!?』







『‥冷てえ‥』



『きゃーっ、大変!シロちゃんの頭が真っ赤にっ!?』








『いや、シロップだから』






雛森のかき氷は、苺味だった。
そして、それが直撃した日番谷の銀髪は、部分部分が赤く染まってしまったのだ。


さらには、死覇装の隙間から流れ込んでくる。








『ひっつん、羽織に苺シロップついてる〜!』


『うっせえ、笑うな!』








『ごめんね、日番谷くん‥!こんなになっちゃった‥』


そう言って雛森は手ぬぐいを取り出し、日番谷の顔や頭を拭きだした。






『いや、別に‥氷とかかかっただけだしな。‥お前にかかんなくて‥よかったんじゃねえの』



『日番谷くん‥』



優しい言葉に雛森は頬を緩める。



そこで日番谷は、お得意の憎まれ口でも叩いてやろうと口を開いた。



『まぁでも、あえて言うなら‥‥』



そのドジっぷりを少しは直せよな、と続くはずだった言葉。









『昔みたいに体洗ってくれたらいいんだけどな♪』







‥‥‥‥‥。







『‥おいいぃぃぃ!!?』






日番谷の叫びが貴賓室にこだまする。



‥当然だが、今の台詞は日番谷が言ったものではない。






『草鹿っ!!何言ってやがる!?』



『え〜?ひっつんの心の声を言ってみただけだよ♪』



台詞を言った張本人‥やちるは当たり前のように返した。







『つーか、昔みたいにって‥なんでお前が知って‥!』



『なんとなくだも〜ん!そっか、当たってたんだぁ♪』




『!!』




墓穴を掘る日番谷。


一方、雛森は。







『‥シロちゃん‥体洗って欲しいの?』


そう呟き、しばらく考えこんだ様子をみせると‥‥







日番谷の死覇装に、手をかけた。








『おわあっ!?い、いきなり何すんだっ!?』


慌てふためく日番谷。しかし雛森は、だって、と返しながら日番谷の死覇装を引っ張る。


『お風呂はさすがに無理だけど‥体を拭くことならできるもん』



『な‥べ、別にいいっての!草鹿が勝手に言ったことだろ!』


『でもシロちゃん、してほしそうな顔してたもん!』





『してねえよ!!』


俺は変態か!と日番谷は心の中でツッコミをいれた。






『とにかくっ、早く脱いじゃって!』



『それがおかしいだろっ!しかもさっきから、さりげなくシロちゃんて呼ぶな!』









‥‥そんなやりとりを眺めるやちる。






『甘い、甘いね♪』




さっき食べたかき氷より、こんぺいとうより甘い甘い。











こっそり懐に忍ばせていたボイスレコーダーを握りしめ、満面の笑みを溢すやちる。






女性死神協会の次の企画に、ぜひとも使わせてもらおう。(二人には内緒だ)








きっとまた、商品も素晴らしく売れるはず。








‥‥まあとりあえずは、この二人のやりとりを十分楽しんだということで。










今日はお腹いっぱい、ごちそうさまでした♪

‐fin‐




飴ころ様からいただきました!鈍感桃ちゃん、ちょいS?やちるちゃんに振り回される冬獅郎君がすてきですX
飴ころ様、ありがとうございました!