(1/9)page
純白の誕生日


これはまだ、二人とも護廷十三隊にもはいっていなかったころのお話。



12月下旬。自分の誕生日が近づいているというのに、日番谷冬獅郎は最近、日に日に不機嫌になっていた。
その原因が…

「…行ってきまーす!」

明るい笑顔を振りまいている少女。

「今日も行くのかい?桃。」

「うん、おばあちゃん。」

彼女、雛森桃は、冬獅郎の幼なじみだ。
最近、桃は毎日朝早くに出かけては夜遅くに帰ってくる。
友達の家に行っているらしいが、なんだか怪しい。
前までなら、桃は遊びに行くときは必ずと言っていいほど、冬獅郎を誘っていた。
なのに、最近は誘わないどころか、焦りながら『来ないで』と言われる始末。

何か、隠し事をされている。
勘が鋭い冬獅郎はすぐに気づいた。

いくら雛森に甘い冬獅郎でも、隠し事をされるのは気になるし、不安にもなる。

(まさか…好きな奴ができたんじゃ…)

その時の冬獅郎はまだあまりに幼く、自分の胸のモヤモヤが何なのかわからなかった。

そんな毎日が続き、いよいよ今日は冬獅郎の誕生日。
しかし、今日も…
「い、行ってきます!」

「おい、寝ションベン桃!」

「し、シロちゃん!」

(もう我慢できねぇ。)

「桃、今日も…行くのか?」

「…っ、シロちゃん…」

桃は困ったように冬獅郎をみた。

「…ごめんね。」

「!も…」

桃は冬獅郎から顔を背け、慌ててかけて行った。

「…なんだよ」

(俺の誕生日…忘れちまったのか…?…桃…)







その日の夜。
冬獅郎はいじけているらしく、ずっと部屋の隅で座りこんでいた。

(なんだよ、桃のやつ、おれの誕生日忘れて…)

(『おめでとう』ぐらい、言ってくれよ…)

『俺の存在はそんなものだったのか?』と、冬獅郎はショックを受けていた。

そんな時

「シロちゃ〜ん!ご飯だよ〜!」

「桃…」

(帰ってたのか…)

時計を見ると6時過ぎ。いつもより1時間も早い。

「シロちゃ〜ん!早くぅ!」



「え…なんだよこれ。」

冬獅郎は居間に来て驚いた。
いつもより、少し豪華なご飯が並んでおり、花も飾られている。

桃と祖母が座っているので、冬獅郎もとりあえず座った。


「だって!シロちゃんお誕生日でしょう?」

「…!」

ニコニコと笑う桃を驚いてみる。

「お誕生日おめでとう!シロちゃん!」

「おめでとう、冬獅郎」

桃と祖母からそういわれ、冬獅郎は照れたようにボソッと
『ありがとう』
と、言った。





「はい、シロちゃん!」

「…?なんだよ、これ?」

「何って…プレゼントだよ!」
『開けてみて』といわれ、青い包みをガサガサと大胆に開ける。




「…マフラー?」

「そう!」

「…お前が編んだのか?」

ところどころ編み目がずれている真っ白のマフラーをみながら問う。

「うん…」

少し照れたように笑った。

「…下手くそ」

「ひ、ひどいシロちゃん!これでも頑張ったのに!」


「…まぁ、不器用なお前にしちゃあ、な」

「シロちゃん!」

素直に『嬉しい』と言えない冬獅郎だが、桃は彼のそんな性格をわかっているようで。

「…なんだよ」

「えへへ〜!なんでもない!」




「…シロちゃん」

「あ?」

突然、表情を曇らせた桃をみて、冬獅郎は眉をひそめた。

「朝はごめんね…。プレゼント渡す時に言いたかったの。『おめでとう』って。」

「べ、別に気にしてねーけど。あ…お前、最近ずっと出かけてたのって…」

「うん、友達に編み物教わってたの!」

「そうか…」

冬獅郎は少しホッとしたように頬を緩めた。














少し汚れたが、ほぼ真っ白なままのマフラーを幼き日を思い出しながら見ていた、十番隊隊長、日番谷冬獅郎は、ある霊圧を感じて顔をあげた。


「こんにちは!日番谷君っ!」

「雛森…」

少女から女性へと変わりつつある幼なじみ、雛森桃だ。

「乱菊さんは?」

「いつものサボリだ。」

「あぁ…。」

桃は苦笑いする。



「あれ?そのマフラー…」

「え゛!」

ギクリ

「私があげたやつだよね!まだ持っててくれたの?」

「いや…その…す、捨てる機会がなかったんだよ!」

「またシロちゃんは…こんなに汚れるまで使ってくれてたのに…」

『意地っ張りだなぁ』と笑う桃に『うるせーよ』と顔を赤らめてかえす。

「でもこれ、もうシロちゃんには短いね…」

「『日番谷隊長』だ。」

冬獅郎が呆れ気味に訂正する。

「…ってことで、はい!」

「…!」



冬獅郎の手には、あのマフラーと同じ色の真っ白なマフラーがあった。

「日番谷君、お仕事忙しくて忘れてたでしょ。今日が何月何日か。」

「今日は…!」







12月20日…
俺の誕生日…



アイツはあの頃と変わらない笑顔で言った。


「シロちゃん、お誕生日おめでとう!」








END