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一日遅れの…




12月のある寒い日。
薫はカレンダーを見て、ため息をついた。
今日は12月10日。彼女の誕生日だった。

朝から、友達や、先輩からもお祝いの言葉をもらった。
しかし、一番祝ってもらいたい相手からは今だに連絡は来なかった。
薫の彼氏──茂野吾郎だ。

アメリカにいる彼が毎日ライバル達と戦っているのを、彼女は知っている。
だから、
(私の誕生日を忘れていてもしょうがない)
(というか自分の誕生日すら忘れるあの本田が、私の誕生日を覚えているはずがない)
そう思った。

それでもなんだか淋しくて、泣きそうになった。
薫は服も着替えずに、鳴らない携帯をにぎりしめたまま、ベッドに潜りこんだ。







「姉貴ー。起きろよ」

弟の大河に揺すり起こされ、薫は目をこすった。

「んー…?」

「お客さん」

「お客さん…?」

大河に促され、下りていくと、懐かしい顔が。

「こんばんは、清水さん」

「久しぶりだな」

「小森、沢村!?」

会うのは何ヶ月ぶりだろうか。
小学生の頃からの幼なじみである小森と沢村の二人が訪ねてきてくれた。

晩御飯でも食べながら話そうということになり、薫は慌てて用意した。

「大河、晩御飯いらないから」

「茂野先輩に言っといてやろー」

「っ、バカ!」

からかう弟の視線を感じながらも、薫は家を出た。







とあるレストランの一角で三人は会話を弾ませていた。

「あ、そういえば清水さん…今日誕生日だよね」

「え…!」

(覚えてくれてた…)

小森と、頷く沢村に薫は笑顔を見せる。

「おめでとう!これ、僕らから…」

「大したもんじゃねーけど」

「え…えーっ!うそ、ありがと!開けていい?」

「うん」

可愛らしい包みを開くと、これまた可愛らしいデザインの写真立てが現れた。

「わ!かわいい…!
なんか悪いなぁ…ごめんね」

「いいんだよ、ほんの気持ち。」

「本田と撮った写真でも飾れよ」

ニヤニヤしながら言った沢村だったが、薫は『本田』というワードで、顔を歪ませた。
「…清水?どうした?」

「え、あ…ううん、なんでも!」

「…もしかして…本田くんと何かあった?」

「う゛…」

なんでだろ?
なんで小森はこんなに鋭いんだろ?
聞くと
『わかるよ。僕ら、長い付き合いだもの』
と、笑ってかえされた。

「で、どうしたんだよ」

沢村が心配そうに問い掛けると、薫はため息をつき、渋々話し始めた。

「なんかあったってわけじゃないんだけど…」









「え、じゃあ電話ももらってないの!?」

「うん…」

「しかも二週間前から連絡とってないって!?」

「…うん…」

少し間をおいて、小森と沢村は大きなため息をついた。

「まぁ、本田らしいっちゃあ本田らしいけどな…」

「忘れてる…のかな…本田くん…」

「………」

どんどん元気がなくなる薫を見て、小森と沢村は慌てた。

「あ!と、とりあえず電話してみればいいじゃねぇか!?」

「うん!思い出すかも知れないよ!」

「……」

やっぱり男子だもんな…
全く乙女心をわかっていない二人を少し呆れた目で見ながら呟いた。

「そんなの…なんか催促みたいでやだもん…」

「清水さん…」

「でもよ、清水「いやなの!」

沢村の言葉を遮る彼女の大きな声に、彼と小森は驚いて薫を見た。

「いやなの…本田が頑張ってるのに…邪魔しちゃうんじゃないかって不安になるの。だから連絡もとれない…。でも…いつか本田に忘れられたらどうしようって思って…どうしたらいいのかわかんなくなって」

「……清水さん…」

「…あたし、本田から離れるのはいや…でも…でもね…?
本田の邪魔をするのはもっといやなんだ
だからあたしは…あいつが頑張ってくれれば、それでいい…」

(…はずなの)

ハッとして赤面した薫はからかわれるかと身構えたが、
小森と沢村はあまりに健気な薫の言葉に、何も言えなかった。






その日一日、薫は枕元に携帯を置いて寝たが、来たのはメルマガや、友達からのメールのみだった。

次の朝、薫は携帯を確認し、再びため息をついた。

(あいつに期待した私がばかだったんだ)

その時、携帯が震えた。
驚いて携帯を落としそうになりながらもディスプレイを確認した薫は、更に慌てて受話をONにした。

「も…もしもし?」

『おう、清水。俺だ、俺。』

「本田…!」

覚えていてくれたのだろうか。
いや、忘れていてたまたまかけてきただけかもしれない。
あまり期待してはいけない。

そう思いつつも、珍しい吾郎からの電話に、薫は口元が緩まずにはいられなかった。

「どうしたの?」

『何言ってんだよ。…お前今日、誕生日だろ?』

・・・・

「へっ!?」

薫はもう一度カレンダーを確認する。
間違いなく、今日は11日だ。

「本田ぁ…私の誕生日は昨日だよ…?」

『は?…え、マジ!?』

「マジ。」

吾郎の慌てふためく様子が目に浮かび、薫は苦笑した。

『え…12月10日じゃねーのか!?』

(…え)

「そ、そーだよ」

なにいってんの、コイツ。


薫は何かおかしいと気づいた。

『なんだよ、合ってんじゃねぇか…って……
……あぁぁぁあ!!』

電話の向こうで叫んだ吾郎にワンテンポ遅れ、薫も
「あっ」
と声を上げる。

『「時差…」』














『なんだよ…ビックリさせやがって…』

「あはは…ってか、本田だって忘れてたくせに!」

『う゛…』


他愛もない話をしながら、薫は心が温かくなるのを感じた。

『てかお前、男と遊びに行ったって本当かよ』

(急に不機嫌な声で何をいうかと思えば…)

「はぁ?そんなの誰が…」

言いかけて薫はハッとした。
昨日の弟の言葉が瞬時に浮かぶ。

“茂野先輩に言っといてやろー”

「大河か…」

そういってため息をついた薫に、吾郎はますます不機嫌になる。

『なんだよ…お前俺のいない間に…』

「違う違う。会ってたのは小森と沢村だよ」

すると聞こえてきた間抜けな彼氏の声に、薫は思わず吹き出した。



『あ…そういや…』

「ん?」

『…あー、いや、なんでもねぇ』

「?」

歯切れが悪い吾郎に首を傾げる薫だったが、部活の時間がせまっている事に気づいた。

「…わ、もうこんな時間…!?ごめん本田、あたし今から部活が…」

『ああ、そうか。頑張れよ』

「ありがと。本田も…頑張ってね」

「おう……清水、」

電話を切ろうとしたが、呼びとめられ、薫は慌てて電話を持ち直す。

「な、何?」

『…た…誕生日、おめでとう』

それは小さな声で、照れ臭そうに呟かれた。

「ありがとう」



一日遅れの…
部活に行こうとした彼女が郵便受けに、彼からのプレゼントを見つけ、一日上機嫌だったのは、また別のお話。



End

サクラ様、お待たせしました!
切ない…感じが出し切れなくてすみません…(泣)

本当はいつだって淋しいし、連絡をとりたいけれど、吾郎の邪魔になるのはいやな薫ちゃん。
それが誕生日をきっかけに小森と沢村の前で爆発(?)みたいな話を書きたかったのですが…

時期も違ううえに、時差についてもあやふやなもので…
いろいろと矛盾が生じているかもです。力不足でごめんなさい…!

リクエストありがとうございました!