(41/75)page
Happy...


『あの…オレ、鈴木先輩が好きです!』

「鈴木」という聞き慣れた名前に、俺はまさかと思ったが、辺りを見回した。

…いた。

長い黒髪に茶色の瞳。うちの野球部のマネージャー、鈴木綾音だ。
そしてもう1人、男がいた。
俺の知らない奴だ。…多分一年生だろう。

マネージャーは一瞬驚いて、頬を染めて困った顔をした。



(…なんだコレ)

マネージャーの見たことがない表情を見て、胸がザワザワ、モヤモヤする。


その瞬間、俺は気が付いた。
気がついてしまったことを、後悔した。


俺は…マネージャーが…





「ごめんなさい」

マネージャーの声にハッとして我にかえる。

「私…あなたのこと、よく知らないし…」

本当に申し訳なさそうに謝るマネージャー。一年は残念そうに言った。

「そう…ですよね
…あの…じゃあ『友達』からでも…?」

「え、あ…はい、もちろん」

優しく微笑む彼女。それにつられて、一年生も笑った。


俺は二人に背を向け、駆け出した。




****

生まれて初めてされた、告白。

どう対応すればいいのか、わからない。


「あの…鈴木先輩って、野球部の清水先輩と付き合ってるんですか?」

「え…ぇえっ!?」

突然の質問。顔が熱くなるのを感じた。

「…付き合って…ないよ」

「じゃあ、好きなんですか!?」

「す…っ!?」

私を見つめる一年生。
その瞳はとても真剣で…


「……うん。でも、私…子ども扱いされてるし…」


相手にされてないことなんて、わかってるの。

「…先輩、俺、先輩のこと諦めません。だから、先輩も告白する前から諦めるなんて、しないで下さいね。」

「…!っ、ありがとう…」


駆け足で去っていく少年を見送る。


…すごいなぁ
自分の気持ちを言えて

私はしばらくそこから動けなかった。




****

「なに?じゃあお前、マネージャーが告白されたのみて自分の気持ちに気づいたってわけ?」
「……」


俺は珍しく黙っている親友に、呆れ気味にはなした。

「…まぁ、断ってたんだろ?」

大河はコクリと頷いた。「…マネージャー…好きな人でもいんじゃない?」

真剣に悩む大河に少し意地悪く言ってみる。
今までさんざんヤキモキさせたお返しだ。
はたからみれば一目瞭然だったマネージャーの気持ちに、我が野球部キャプテンは今でも気づいていない。

「あいつが好きなのは…『佐藤先輩』だろ?
俺は…」

「…」

…野球では強気な大河が恋愛ではここまで弱気になるのか

内心苦笑いしながら口を開く。

「マネージャー、もう佐藤先輩のことが好きとは言ってなかったけど」

「え…」

「ま、自分で聞いてみれば?来週にでも」

「…来週?なんで?」

…コイツまさか

「…大河、来週の水曜日って何の日だっけ?」

「……なんかあったっけ?」

おいおい…コイツは…!

「マネージャーの誕生日だろ!?」

「え…」

「お前なぁ、誕生日さんざん祝って貰っといて…マネージャーの誕生日知らなかったのかよ」

図星だったらしく、大河は途端に慌てだす。

「ま…マジで…?」

「マジ」

「…」

大河は眉間にシワを寄せ、黙り込んでしまった。

「お前は、もうプレゼント買ったのか?」

「あぁ。俺は普通にキーホルダーを買ったぜ?」

「…」

再び黙り込んだ大河。その時

「清水君、」

「うわっ!」

背後から現れたマネージャーに、大河は飛び上がった。

「えっと…大丈夫…?」

「…な、なに?」

「あの、明日の練習だけど…山田先生が出張で…」

「あぁ…」


明らかに態度がおかしい大河だが、マネージャーはあまり気付いてないようだった。

(頑張れよ、大河)

俺は心の中でつぶやいて、席をたった。

*****

「プレゼント?」

「あぁ。マネージャーが誕生日でさ、姉貴、一応女だろ?参考になるかなって」

「こら、一応ってなんだ、一応って!」

相変わらず生意気な我が弟。でも、本当に悩んでいるようで、からかいたくなる。


「ふうん。でも珍しいな大河。そんな真剣にプレゼントで悩むなんて…?」

「俺の誕生日は盛大に祝ってもらったからね」

『お返しだよ』と、大河は照れくさそうに言った。

「でも、あたしその子に会ったことあんまりないし、それにそういうモノは大河が自分で悩んで買うからこそ意味があるんじゃないのか?」

「…」

あたしがそういうと、大河は納得したような、腑に落ちないような微妙な顔をした。



*****






あっという間にその日はやってきた。

いろいろと悩みすぎて、結局何も用意できなかった大河。
そして日に日に強くなる綾音への想いに余計どうすればいいのかわからなくなっていた。


「じゃあ、今日はここまでにしましょう」

「「「ありがとうございました!!」」」




「マネージャー誕生日ッスよね!おめでとうございます!」

「ありがとう、渋谷君!」

「どうッスか、みんなでカラオケでも?」「え…えっと…」

「マネージャー」


突然かけられた声に、綾音は驚いて振り向いた。

「清水君…」

「…今日、ちょっと付き合ってくんない?」

「え、…うん…」

「…つーことだから」

大河は渋谷達を見る。

「悪ィな」

そう言って、大河は綾音の手をぐいぐい引っ張っていった。

残された一年は顔を見合わせた。

((((全然『悪い』って顔してなかったんスけど…))))

そして

(あいつちゃんとプレゼント買えたのか…?
ってか、大丈夫かなのか?あぁー…うまくやれよ、頑張れよ大河!)

意外と心配性な服部だった。







*****

「…で、付き合ってほしいって、どこに?」

「え゛…えっと…」

キョトンとして俺をみてくるマネージャー。

「…『付き合ってほしい』っていうか…『付き合わせてほしい』?」

「へ?」

「…今日、アンタ誕生日だろ?俺、プレゼントって何買ったらいいのかわかんなくてさ…」

なんだか照れくさくなり、マネージャーから顔を背ける。

「だから、今日1日…ってもう夕方だけど、なんでも付き合うから」

「え、でも…いいの…?」

「ああ。」

するとマネージャーは顔を輝かせて、俺の手をとり駆け出した。

「私、行きたい場所があるの!」










カァン!

響く金属音。

「…行きたいところって」

「そう!」

バッティングセンター。
ここがマネージャーの行きたいところだった。

「だって…みんな練習とか試合ですごく気持ちよさそうに打つんだもん!
でも私はマネージャーだからできないし、バッティングセンターに一緒に来てくれるような友達もいないし

清水君なら来てくれるかなって…
前から誘おうかなって思ってたの!」

『だから嬉しい!』
と笑顔で言われて、やっぱり好きだ、と思った。

「ね、清水君、どうやったらいいの?」

「え?あ…」

マネージャーといえども、初心者。
バットを持つ位置から教える。

目をキラキラさせながら話を聞くマネージャー。

(可愛い)

思ってても言えない。
ましてや『好き』なんていえるのか?

でも…言わなかったら、誰かに先を越されてしまうかもしれない。
…先日の一年と2人でいる場面が蘇る。
…それは…イヤだ。


「ね、ね、清水君。」

「打って見せて!」

「え…」

練習が終わった後にバッティングをやることになるとは…


でも、彼女の頼みなら仕方ない。







カァン!!

一球一球丁寧に打ち返す。

心地よい金属音が響いた。












「はあ〜!楽しかった!」

帰り道、マネージャーはニコニコしながら言った。

「本当にありがとう、清水君!」

「ん…俺も…楽しかったし」

「…そっか!」

日も沈み、辺りは真っ暗。
2人きり、だ。

「わたしね、野球してる時の清水君見るの、スッゴく好きなの」

「え、」

突然のマネージャーの言葉に驚く。

「野球してるときの清水君、いつもとってもキラキラしてて…かっこいいよ!
…今日はわたし独り占めしちゃったね…っ」


暗闇でもわかる赤い顔。




…期待…してもいいのか?






「じゃ、じゃあ、私の家、すぐそこだから…!送ってくれて…ありがとう」

マネージャーが微笑み、背を向けようとした。














このまま見送って、いいのか?


















体は勝手に動いた。
ぱしっとマネージャーの腕をつかみ、引き止める。


「…!?清水君…?」

「…いつも、」

「え、」

「…いつも一つのことに一生懸命になれるマネージャー、すごいって思ってた。
…部の雑用とかも…応援も……恋も。
俺は多分ずっと…そういうアンタだから憧れてたんだと思う。」

「…清水君…?」

赤くなり、困惑し、慌てている彼女。困らせてしまうかもしれない。
でも、だけど、




「そういうアンタだから…好きになったんだと思う」

「…え…」



伝えられずにはいられないんだ。




「俺、マネージャーが好きだよ」





するとマネージャーは、目に涙をいっぱい溜めて、微笑んだ。





「私も…清水君が好き…だよ…!」


お互い真っ赤になりながら、笑った。





「あ、そうだ、マネージャー、」

「?」





「誕生日おめでとう」






















そして、一年後俺は再び『恋人』へのプレゼントで頭を抱えることになるのであった。



END


あとがき


藤城様、本当にお待たせしすぎました…(泣)
すみません!

いろんなキャラ目線で書こうとおもったら、少し長くなりました…

両想いなのに、『佐藤先輩』という過去の壁や、焦りと葛藤する大河くん、書いていて楽しかったです♪

本当に駄作で申し訳ありませんでした。

そして、素晴らしいリクエスト、ありがとうございました…w