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love letter


──隣のクラスの天川さん、清水君も知ってるでしょう?
あの、可愛いって有名の…

私、その子に頼まれたの…




そう言って、差し出された手紙。大河はじろりと綾音を睨む。

「…なんで?」

「え、」

「なんでそれをマネージャーが持ってくんの?」

綾音は困惑したような表情を見せる。

オレンジ色に染まる教室、今いるのは、大河と綾音、2人だけだ。

大河は大きく溜め息をついた。
「…とにかく、自分で渡しにもこないような人の手紙なんて、俺は受け取らないよ」

「清水君…」

「もういいよ、部活ないし、早く帰ろうぜ」

「‥‥」






マネージャーは、最近、女子から俺宛ての手紙をよく預かってきていた。
俺は仲が良くもない人にはメアドを教えない主義だ。毎日毎日女子とメールばかりすんのは、うざい。

だから、メールのかわりに手紙を送るのだ。
直接渡してくるのなら断れるが、マネージャーを通してくるとそうはいかない。

おそらく、同じ部活で席も隣の『仲がいい』マネージャーなら、受け取ってくれると思ったのだろう。

正直気分の良いものではない。

なにしろ、自分の好きな子に、他の女子からの手紙を平然と渡されるのだ。

(少しでも妬いてくれたら、)

そんなことを考えるが、彼女には別に好きな人がいる。無理な事だと分かっていた。

そんな相手に告白できるほど、今の俺に勇気はない。


「…清水君、あの」

昼休みに呼び止められ、振り向く。
すると、オロオロするマネージャー。


(また、か…)

「あの、この手紙…」

「返してきて」

「そんな…中身も…差し出し人も見てないのに…」

「返事決まってんのに読んだって、しょうがねぇじゃん」

そういうと、マネージャーは目を見開き、手紙をポトリと落とした。
思わず『マネージャー…?』とよびかけると、彼女はびくりと体を震わせた。
そして、みるみるうちに目に涙を溜める。

「ちょ、」

「…清水君のばか…」

そう呟き彼女は走り去ってしまった。


残った手紙の裏には
『鈴木綾音』とかかれていた。









結局、マネージャーはなにがしたかったのだろう?
授業も頭に入らない。
俺は、彼女の名前が書いてある封筒と、その中に入っていた、まっさらな何も書かれていない紙を交互に見つめた。
そして、シャーペンを手に取った───
この授業中、彼女は戻って来なかった。



「先生、マネージャー知りません?」

さっきまで授業をしていた、野球部の顧問である山田先生に問う。

「鈴木マネージャーですか?私は知りませんが。そういえばいませんでしたね。珍しい。」

俺の表情を見て、山田先生はだいたいを悟ったようだった。

「清水君、」

「…?」

「すみませんが、これを鈴木さんに渡してきてくれますか」


手渡されたのは、野球部の練習日程表だった。


「え、でもこれ、放課後にでも…」


と、言いかけて、俺はハッとする。

先生は微笑んだ。

「『緊急』なのです。お願いしますね。」

俺は一礼すると、廊下を駆け出した。
のだろう?
授業も頭に入らない。
俺は、彼女の名前が書いてある封筒と、その中に入っていた、まっさらな何も書かれていない紙を交互に見つめた。
そして、シャーペンを手に取った───



この授業中、彼女は戻って来なかっ
風が冷たく頬にあたる。
私は、野球部の練習場所である屋上でベンチの端に腰掛けていた。
さっきまで溢れていた涙はもう止まり、落ち着いていたが、恥ずかしさと不安な気持ちでいっぱいだった。

(…なんであんなことしちゃったんだろ…)

大きな溜め息を漏らす。

(もしかしたら、)

もしかしたら、私が書いたものだと清水君が気づいてくれたら、受け取ってくれると期待したのかもしれない。



「私って、ば…」

「ホント、バーカ」

「し、みずくん…!」

驚いて顔をあげると、少し息を切らした彼が立っていた。


「授業サボって何やってんの、マネージャー?」

「あ…えと、」

なんと言えばいいのか、わからない。
私が俯くと、清水君はあきれ気味に溜め息をついた。

「これ、山田先生から」

「…ありがと…」

「それと、」

そういいながら、清水君は先ほどまで私が持っていた封筒を取り出した。
そして彼から受け取るのを躊躇していた私に半ば強引に握らせた。

「清水君…あの…ごめんなさい」

「…なんで?マネージャー悪くないじゃん。」

「でも…」

「もういいんだよ、授業戻ろうぜ」


そういうと、清水君は背をむけて、ドアに近づいた。


「あのさ、やっぱりマネージャーが預かってきた手紙は受け取れない」

「‥‥」




「でも…『鈴木綾音』サンからの手紙なら別だから。」

「…え…?」

清水君は逃げるように屋上からでていった。
私はなにがなんだかわからないけれど、とにかく嬉しかった。

そのあと、教室に戻ると、2人揃って廊下に立たされ、同級生たちに質問攻めにされたのはいうまでもなかった。




love letter




そして、私が例の手紙に
『好きだ』
という3文字を見つけたのは、この日からしばらくたったあとだった。



END





あとがき


澪さん、お待たせしました!
本当にスミマセン!

大→←綾の設定のハズが、残念な結果に…(泣)

私自身は、手紙ネタがずっと書きたかったので、結構満足してますがf^_^;


やっぱり2人とも別人ですね…
次(があれば)はもっと頑張ります!

ありがとうございました!