(33/75)page
ほんのり桃色


「春だねぇ。」


大きな目をしている彼女は目を細めた。




ほんのり桜色




そりゃそうだろうな、と俺は呟いた。


今は4月。


4月はどう考えても春だろう。


「そう意味じゃなくて!」


…じゃあ何だよ。


「桜もたくさん咲いてるし、暖かくなってきたでしょ?」


だから4月になったからでしょ。


「むー…もういい!」


彼女は頬を膨らませてあっちを向いてしまった。


なんでこんなことで怒ってるんだよ。


おーいマネージャーさーん?


「マネージャーじゃなくて鈴木綾音っていう名前がありますー!」


じゃあマネージャーじゃないわけ?


「マネージャーだけど!もう、清水くんのいじわる!」


再びそっぽを向いてしまった。
 


こんなことで怒るなんてお子様だなー


「お、お子さまじゃないもん!清水くんも同級生でしょ!」


俺とマネージャーはレベルが違うんだよ。


「何のレベルよっ!」


3度目。
頬を膨らませてそっぽを向いたのは。


…あんた、ばか?


「何か言った?」


何にも言ってませんー


そしたらまたぷいとそっぽを向いてしまう。


うん、正真正銘のばかだ。


だいたいあっち向いたらまた何か俺が言うの分かるだろ。


それを知ってか知らずかあっちを向き続ける。


本当にばかだ。


ひらひらひら


何かが俺の頬を掠めた。


一瞬だけど何かが…


ひらひらひら


桜が舞っていた。


たくさんの桜が、雨のように。


上も、下も、桃色。


桃色の空に、桃色のじゅうたん。


「清水くん、すごいよ!」


…何が?
 


「桜に決まってるじゃん!」


うん、そんなの知ってる。


「じゃあ聞かないでよ!」


今度はそっぽを向かず、上を見上げた。


…今度は何をする気なんだろう。


「えいっ」


花びらを捕まえようとする。


不規則に落ちてくる花びらは、手のひらの上に落ちてくるかと思いきや、地面に落ちる。


「あっ」


そのたびにマネージャーは声をもらす。


何度か繰り返してもあきらめない。


目の前に、花びらが落ちてきた。


ひらひらひら


不規則に、ゆらゆらと。


手を広げてみた。


その花びらは素直に手のひらに落ちる。


そしてあー!って声が聞こえた。


「清水くん、いいなー!」


…そんなに欲しいんだったらあげるけど。


「いいの!?」


マネージャーが欲しいって言ったじゃん。


「ありがと!」


…でもどうするわけ?


「桜の花びらにお願いするの。花びらを捕まえられたら願いが叶うって。だから!」


…俺が捕まえたんだけど。

「だ、大丈夫だって!」


頼りない。


…で、何をお願いするの?


「ぜったい秘密!」


なんで?


「恥ずかしいもん。」


…俺が花びらあげたんだけど?


「うぅ…でも…」


綾音、教えて。


「…清水くんが、私にかまってくれますようにって…。あ、笑わないでよ!」


…あんた、可愛すぎ。


「だって野球にやきもち妬いちゃって…!」


可愛い。反則だって。


そんな照れないでよ、俺も照れてくる。


………。


目、つぶって?


照れた顔、見られたくないし。


「ん?」


本当に目をつぶった。


単純だ、本当に。


素直でばか。


だけど、そんな可愛いマネージャーに俺の気持ちを贈りましょう。


マネージャーの唇に、触れる程度のキスをした。







end





澪さんの作品は、どれもほのぼのとしていて、すごく優しいです。
見たり詠んだりしていると、とっても癒やされますよ〜(^O^)

ぜひ、皆さんもいってみてくださいね♪

澪さん、たくさんの素敵すぎる作品を、ありがとうございましたw