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love☆love大作戦


それは、中村美保の一言で始まった。

「ねぇ、なんか怪しくない?」





love☆love大作戦



珍しく吾郎がいない聖秀野球部三年組は素振りをしながら話し合っていた。

「怪しいって、何がだよ、中村?」

宮崎が首を傾げると、今度は内山が口を挟んだ。

「藤井が怪しいのはいつものことだろ?」

「そうそう、俺が怪しいのはいつもの…ってオイ!」

つっこむ藤井を呆れながら見つつ、美保は言った。

「藤井なんかはどうでもいいの。」

「ど、どうでも…」

「あたしが怪しいって言ってるのは、あれ」

そういうと、美保はある一点を指差した。






「大河と鈴木がしゃべってるだけじゃねぇか。どこが怪しいんだよ?」

「藤井…。お前気付かなかったのか?」

田代が呆れながら言う。

「あの二人が最近仲いいのは、みんな気づいてるだろ。…茂野を除いて。」

『『『確かに…』』』

と、みんな同意する。

「絶対あれは両思いよ。告白はしてないようだけど。」

『女の勘!』
と、美保はニヤリと笑った。

「でも、大河は中村を気にしてると思ってたんだけど。ほら、電車で…」

「それなら、鈴木も、海堂の佐藤に憧れてるって大河から聞いたぜ。」

内山と宮崎がいうと、美保はまたにやりと笑った。

「大体みんな、年上に憧れを抱くものよ。…まぁ、大河もあたし相手じゃそりゃあ仕方ないわよねぇ。」

みんなあえてつっこむ事をしなかった。

「とりあえず、今日は茂野もいないし、あの二人をくっつけちゃおうと思ってさ。」

美保はドンドン話を進める。
結果、

「三年だけじゃ頼りない」

と、本人達以外の野球部全員で、
『清水大河&鈴木綾音love☆love大作戦』(美保命名)
が実行された。

「まずは、気持ちを確かめなきゃダメね」

そういうと、美保は突然、服部を指差した。

「服部、あんた大河に聞いてきな」

「え…?何をですか?」

キョトンとする服部に、美保は半分呆れながら言った。

「綾音ちゃんのこと、どう思ってるのか、よ!」

「えぇっ!俺がですか?」

「俺が聞いてきてやろうか!?」
面白そうに自分を指差し、笑う藤井に美保は一瞥し、
『お前は顔にでるから絶対行くな』
と釘をさした。

「綾音ちゃんはあたしが聞いてくるから。」






服部side

「おーい、大河!」

まずは、慎重に…と、俺は大河にとりあえず声をかけた。

「何だよ、服部?」

「いや、大したことじゃないんだけどさ、」

「?」

俺はなんと言ったらいいのやらわからず、ゆっくりと言葉を選びながら聞いた。

「なんかさ、最近お前とマネージャー、仲いいな」

「は?」

「いや、よくしゃべってんじゃん。」

「そう?別にそんなことないと思うけど」

と、言った瞬間、ハッとした様子で大河が俺をみた。

「何?お前マネージャーが好きなの?」




…はい?

「ち、違うから!」

「あれ?違うの?」

なんの勘違いだよ!

「大河こそ、どう思ってんだよ、マネージャーのこと。」

「はぁ!?」

「好きなんだろ?」

そういった瞬間、大河はくるりと俺に背を向けた。

「別に…ただのチームメイトだろ」

そして、素振りをしに行ってしまった。
そんな大河の姿をみて、俺はニヤリと笑った。
一緒に話したりしているうちに、俺は見抜いてしまっていた。
照れたら背を向けるという、あいつの癖を。








美保side

ベンチに座って、ボールを磨いていた綾音ちゃんに、あたしは近づいた。

「綾音ちゃん♪」

「あ、中村先輩!」

『ボール磨き、もうすぐ終わります!』という彼女の隣に座る。

「ありがと!




…ところで綾音ちゃん。」

「はい?」

彼女の目を真っ直ぐ見る。

「佐藤君のこと、どう思ってるの?」

「佐藤先輩ですか?」

綾音ちゃんは、一瞬キョトンとし、すぐにニッコリ笑った。

「えっと、大好きな…憧れの先輩です!」

憧れの…ね。

「じゃあ、大河は?」

「へっ!?」

『し、清水君ですか?』と、真っ赤になってどもる彼女に、思わず笑みがこぼれた。

「し、清水君はっ…大切な、ち、チームメイトです…!」

(わっかりやす…)

綾音ちゃんは、『ボール直してきます!』と、そそくさと去っていった。










****


「で!?どうだったんだよ!?」
再び服部と美保が加わり、野球部は集まっていた。

「やっぱり、意識しあってるわね、あれは。」

「ええ、大河も照れたときの癖が出てました。」

二人の気持ちは確認できた。問題はここからだ。




「よっしゃ!じゃあまず俺の作戦でいくぞ!」

意気揚々と立ち上がった藤井に、みんな不安気な顔をした。
藤井がどうしても、というので、仕方なしに彼に任せたのだ。
藤井の作戦はこうだ。

「いいか。まず、屋上に入る廊下の電球を外しておく。すると、窓が無いから、ほとんどまっくらになるだろ?

そこで屋上の入り口のところを水で濡らしたり、雑巾ですべるようにする。

そして、そこで大河が転び、『清水君大丈夫!?』となる。
または逆もあり。

そして保健室にて、二人の距離はうんと近づくのだ!」

『我ながら完璧な作戦だ!』という藤井に、美保は(そんなにうまくいくわけねぇだろ…)と思いながらも、しぶしぶ、明日の朝実行することにした。






翌日。

準備は完璧。野球部の面々は、素振りをしながら聞き耳をたてていた。
『うまくいくだろうか』という期待と不安でいっぱいだった。

そして…

二人分の足音が近づいてくる。間違いなく、あの二人だ。
みんな息をひそめた。


ガラッと扉が開くと同時に、ドッテーン!という音がした。
入り口では、綾音が見事に転んでいた。
藤井が
『よっしゃぁ!』
と、影でガッツポーズした。
予想通りの展開になり、作戦は成功するかに見えたが、大河の次の言葉により、事態は一変する。





「なにやってんの、マネージャー。


…ダサッ」

その場にいた全員が、凍った。









「…ひ、ひどい!そんな言い方しなくてもいいじゃない!
清水君のバカ!」

状況をよくするどころか、悪くしてしまった藤井だった。

その後、藤井は美保から怒られ、大河と綾音は仲直りできぬまま1日が終わってしまった。

次の日、久々に野球部にやってきた吾郎は首を傾げた。
他人の気持ちには鈍感な吾郎でも、野球部の雰囲気が悪いのに気がついたのだ。

綾音はいやにトゲトゲしいし、いつもはしっかりしている仕事も、今日はミスが多い。

大河もなんだかイライラしているようで、先輩後輩関係なしであたりまくっている。そして誰もそれに言い返さない。

いつもならうざいくらいテンションが高い藤井が今日はうざいくらいテンションが低い。

(一体何があったんだ?)

一人状況ができない吾郎だったが、とりあえず、いつも通り練習することにした。













「よーし、じゃ、ノック始めるぜ!」

「…オー…」

吾郎の呼びかけに応じる声はどこか覇気がない。
が、気にしないふりをして、ノックを始める。
ほとんどの部員がかろうじてボールを捕るものの、動きはキビキビしない。
なかでも藤井はボールが見えているのかどうかもわからない。
つったったまんま、ピクリとも動かないのだ。

外の部員もそれに対して何も言わないどころか、むしろ彼を哀れんでいた。

逆に大河は動きは完璧なのだが、返球に力が入りすぎて、宮崎がビクビクしている。

「藤井はもう一回だ!」

「あ、あぁ…」

とはいうものの、やはり藤井は放心状態だ。
そのとき、地面に転がっていたボールに足をとられ、吾郎の体制が崩れた。ノックをする準備に入っていた吾郎は打つ場所がずれ、打球は全く違う方に飛んで行く。




そのさきには…












「綾音ちゃん、危ない!」

「え…?」

美保が叫んだ。

吾郎の打球はバウンドせずに、真っ直ぐ綾音めがけて飛んでいく…。











綾音side

(もう清水君なんて知らない!)

苛立っていた私は、ミスばかり。
茂野先輩が体制を崩したときも、
(あ…私がボールをちゃんと集めてなかったから…)
なんて思ってたら、ボールがこっちに飛んできた。
(あ、当たる…!?)
そう思ってギュッと目をつぶったけれど、思っていたような衝撃がこない。
恐る恐る目をあけると、私の前に、清水君がしゃがみこんでいた。






大河side

(ムカつく。)

ケンカなんか、前は毎日のようにしてたのに。
前よりも…なんていうか、つらく感じる。

「…ハァ。バッカみたい。」

俺の呟きを誰一人聞いてはいない。
もう一度、大きく溜め息をついた時だった。

『うわ!』

という茂野先輩の声に顔をあげると、彼の打球があいつに飛んでいくのが見えた。
考えるより先に、手が出ていた。



気がついたら、左腕に衝撃と痛み。
と、心配そうなアイツの顔があった。





****

「清水君!」

綾音が泣きそうな声で叫んだ。
「大丈夫!?」

腕をかばいながら大河は立ち上がった。

「俺はね。…あんたは?」

「私は大丈夫…清水君がかばってくれたから…」

「そ。」

綾音が泣き始める。

「ごめん…ごめんね、清水君…。私がイライラしてボールちゃんと片付けなかったから…」

「そのあんたを怒らせたのは俺だし。
…ごめん。」

周りの野球部は唖然とこの光景を見ていた。
そして、次の言葉で再び全員凍りつくことになる。







「やっぱ俺、あんたいねーとなんかもう無理。色々と」

「わ、私も…やっぱり、清水君がいないと、…寂しい」

(((((…はい?)))))

「あの〜…大河君?綾音ちゃん?」

美保が冷や汗を流しながら、二人に聞く。

「も、もしかして2人って…














付き合ってたりするの?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

一瞬の沈黙。

「「「「「えぇーっ!?」」」」」

屋上に驚きの声が響いた。

「だって、綾音ちゃん、前に聞いたときは!」

「先輩に知られたら、からかわれるんじゃないかなって…」

「紛らわしいことするんじゃねぇよ!」

と、文句を言いながらも笑顔の宮崎と内山。
さっきのどんよりムードはどこへやら、みんなお祝いムードとなっていた。

そんな中、なにがなんだか分けがわからない吾郎は首を傾げ、そのとなりには、藤井が涙を流しながら座り込んでいた。







「…って、俺だけ怒られ損じゃねぇーかぁぁあ!

こんなオチいらねーんだよぉぉぉお!!」



END





あとがき


B様へ



まずは謝らせてください。

ほんっっっとにスミマセンでした…
長い間お待たせしてしまった上にこんな駄文で…
しかもリクエストからはずれてますよね…。
ごめんなさい。

吾郎と清水の時は大河がキューピットだったので、大綾では…と思った結果こうなりました。
藤井がちょっと可哀想ですね…
大河達がケンカした後、美保から怒鳴られたんですよ、きっと。


ギャグ?にまではしってしまい、申し訳ないです…


文句など、なんでもおっしゃってください。
返品OKです。
本当にすみませんでした。