(25/75)page
あなたは私の特効薬




「いったぁい!」

台所からあがった、悲鳴にも近い声に、大河は呆れながら振り返った。

「…本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ、大河くん!」

「…血入りの肉じゃがなんていらないからね」

「そんなの入ってませんっ!」

顔を真っ赤にして憤慨する綾音に、大河は苦笑する。

大河の両親は友達の結婚式、姉の薫は大河の先輩である茂野吾郎とデートでいない。
薫は大河を心配してか、綾音に晩御飯を作るよう頼んだのだ。
そんな彼女が2時間前から作ろうとしているのが、肉じゃがだったのだが。



「綾音、大丈夫?」

「だ、大丈夫だって!」

「血ィでてんじゃん」

「う゛…」

綾音は赤くなり何も言わずに黙ってしまう。
張り切っていたぶん、失敗ばかりで恥ずかしくなったのだろう。
そんな自分の恋人が、とても愛らしく思えた。

しかし、彼の性格からして、そんなことを素直に言えるわけなく。

「はぁ…」と溜め息をついて包帯を取りにいく。





「ほら、手、かして。消毒するから。」

「う、うん…。」

綾音は素直に左手をさしだす。

すると突然、大河は何かをひらめいたようにニヤリと笑った。

(こ、この顔は…)

“何か企んでいる”

綾音は嫌な予感がした。
その矢先。




ペロリ

「…ひゃぁ!」

大河が綾音の指を舐めた。

「な…なな何っ!?」

綾音は瞬く間に顔を真っ赤に染め上げる。

「何って…消毒?」

ケロリとして、大河は答える。
「あれ〜?綾音サン?なんで顔が真っ赤なんですかぁ?消毒しただけなんスけど〜。」

「…大河くんのイジワル…」

「意地悪で結構。」

大河はニヤリと笑った。

(痛みがドキドキで飛んでいっちゃったよ…)





あなたは私の特効薬

(お、うまいじゃん、血入り肉じゃが。)
(入ってないもん!)