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思い出がいっぱい


「…ど、どうしよう…」
綾音はある家の前をうろうろしていた。

(清水君、まだ帰ってないのかなぁ…)

手には一冊のノート。

(何でこうなっちゃったんだろう…)




ことのはじまりは、1時間前にさかのぼる。




期末テスト前日、綾音は先生に呼ばれ、職員室に行っていた。
教室に戻ってくると、誰もいなかったが、大河の机の上にノートがあるのを見つけたのだ。

普段なら部活で渡せばいいのだが、あいにくテスト前で部活はなかった。

他の誰かに頼もうかと思ったが、同じ理由で誰もいなく、先生に相談すると、家に届けるよう頼まれてしまったのだ。


(このノート、テスト勉強に使うだろうし…)

綾音は迷ったが、届けることにした。
先生に大河の家の住所を聞き、少し迷いながらも無事についた。
が…

(家の中にいるのかな…?)

インターホンを押そうかどうか、迷っていたとき、家の扉が開いた。




ガチャ…





「あ…!」

(清水君のお姉さん!)

「あれ?あなたは確か…」

『野球部のマネージャーで大河の同級生の…』と言われ、綾音は慌ててお辞儀する。

「こ、こんにちは!鈴木綾音です!
あの…清水君いますか?」

『ノート忘れてたんで、持ってきたんですけど…』という、綾音の言葉に、薫はにこりと笑った。

「わざわざ持ってきてくれたの?どうもありがとね」

「い、いえ…」

「あ、あの…清水君は…」

「あ…ごめんね?大河、まだ帰ってないの…」

薫は困ったように言った。が、次の瞬間ぱぁっと顔を輝かせた。

「じゃあ、うちで待ってなよ!今両親いないし…」

「で、でもっっ…」

「いいから、いいからっ!」


そういって、綾音は清水家にあがらせてもらった。

「そこに座って」

薫はソファーを指差した。
綾音は遠慮がちにちょこんと腰掛ける。

「紅茶でいーい?」

「は、はい…!すみません…」

「いーの、いーの!わざわざきてくれたんだし!」

薫はニコニコと笑っていた。
『それより、』と彼女は続ける。

「これ!見たくない?」


そう言って彼女がどこからか取り出したのは…




「アルバム…ですか?」

「うん!大河のね!一緒にみよっか!」

「い、いいんですか?」

「いーの、いーの!ほら…」



「これが二歳の時、これが…」

たくさんの大河の写真を綾音は薫と二人で眺めていた。
薫は明るく、話しやすく、綾音ともすぐにうちとけていった。

「わぁ…!清水君、かわいい!」

幼稚園の時の写真を見て、綾音はクスッと笑った。

「ホントだぁ!この時はまだ素直でかわいかったのになぁ…」

「へぇー!見たかったなぁ…」








「あ!この頃、あたしが野球はじめたの」

「清水君のお姉さん、野球やってたんですか!?」

綾音は驚いて聞いた。

「うん。…あ!寿くんの横浜リトルとも戦ったことあるんだよ!」

「え!佐藤先輩と?」

「うん!それでその頃から大河と一緒にキャッチボールとかしてたんだ。」

「そうだったんですかぁ!」

「それでこれが…」

薫の話はまだまだ続く。



が、ある一枚の写真を見て、アルバムをめくる手を止めた。

「この写真…」

(どういうことだよ、
これは…)

部活がないので、バッティングセンターによって帰ってきた大河は、リビングの入り口で目を疑った。
自分のクラスメートが、
自分の家で
自分のアルバムを姉と見ているのだから、当たり前だ。


「あれ?遅かったな、大河」

「清水君!」



「…何してんの」

眉間にシワをよせ、薫と綾音を睨んでいた大河だったが、綾音が開いているページの写真をみて、固まった。

そんな大河を見て、写真に気づいた綾音は、大河にニコッと笑った。



「清水君、これ、まだ持っててくれたんだね!」
一枚の写真を指差して綾音はいう。

「だぁーっ!
ち、違う!それは!」

それは、去年、中村美保が撮った、大河と綾音のツーショットの写真だった。

『記念に』ともらったものだが、大河は嫌がっていたので、綾音は、大河がすぐに捨てると思っていた。

大河は顔を赤くして、否定したが、薫と綾音に笑われ、機嫌が悪かった。





「あ!もうこんな時間!?私帰らなきゃ…」

「わっ!ホントだ!ごめんね、長い間引き止めちゃって」

「いいえ!大丈夫です」
綾音はニコリと笑った。

「それじゃあ清水君、また明日!」

「あぁ、ノートサンキューな」

その後、大河は、薫をチラッとみてから、言った。



「やっぱ暗いし、送ってく。」



「ごめんね、清水君。」

「いいよ。ノートのお礼。」

照れくさそうに大河は顔を背ける。
綾音はそんな大河を見て、クスッと笑った。

「優しいね。」

「…別に…」

(…アンタだからだよ、この鈍感…)

大河は綾音をあきれて見た。

「ありがとうっ」



そう笑顔で言われて、何も言えなくなる。
顔が熱い。大河は暗くてよかったと思った。


間違いなく、今自分の顔は赤いだろう。

「清水君…」

「何?」







「また…一緒に写真とろうね?」

「嫌」

即答するが…

「えぇっ!?どうして!?」

ショックを受けたような顔をみて、少し嬉しかった。

「嘘に決まってるっしょ」

「えっ…」





「いいよ。何枚でも」








たくさん作ろう。
たくさん撮ろう。
君との思い出。
そして、
心のアルバムを
君でいっぱいに…





END