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ふわり、


大綾クリスマス





はらり、ひらり。
雪が降る。数歩前を行く君は、妖精のように踊る。


今日、12月24日はクリスマスイブ。いつも通り練習したあと、顧問が買って来たケーキを食べたり、ジュースを飲んだりしていたら、すっかり遅くなってしまった。周りの部員達に冷やかされるも、大河は綾音を家まで送ると言ってきかなかった。少し驚いたものの嬉しくもあり、綾音は喜んでそれを受け入れた。

いつもよりも暗い校内の廊下を、二人は黙って歩いた。
さっきまでチームメイトと騒いでいただけに、余計に静かに感じた。
そして校庭に出た時、

「あ、」

突然声を上げた綾音に、大河は一瞬ドキリとして、彼女をみた。

「…何?」

綾音の目線をたどって顔を上げた。

「…雪…?」

それは今年初めての雪だった。大分前から降っていたのか、校庭はうっすら雪化粧になっていた。
手を伸ばしてみると、ひらりひらりとゆっくり落ちては、じわりじわりと時間をかけて溶けていく。

自分は『こういうものにかける感性』に疎い。大河は自分で、そう感じていた。
例えば、『山からの景色』だの『初日の出』、『夕焼けで染まる街』だの、確かに綺麗だとは感じるが、それほど感動したりしないし、わざわざしんどいのや、寒さを我慢してまでみたいとも思わない。
しかし─大河はちらりと隣に目を向けた――彼女は違う。
彼女、鈴木綾音は大河が思った通り、目をキラキラと輝かせて空を見つめ、
『わぁ…』
と、感嘆の声を漏らした。

「清水くん、雪だよ、雪!」

「…うん、知ってる」

(何がそんなに嬉しいんだか)

ただ寒いだけじゃん。
コートに手を突っ込んでテンションの低い大河とは対照的に、綾音は子犬のように喜んでかけまわる。
花が、草木が、校舎が。白くなってキラキラしているのを見ては、綺麗、と微笑んだ。
そんな彼女を見て、自分の頬が緩んでいたことに気づいた大河は、慌てて顔を引き締める。
再度綾音に目を向けた大河は、同じようにこちらを見ていた彼女と目が合い、動揺した。
綾音は、何か含みのある顔で大河を見つめていた。

「…何?」

「清水くん、今、私のこと――」

再びドキリとして、崩れそうになったポーカーフェイスを必死に保つ。
そんなに見つめていたのだろうか…?鈍い彼女に気づかれるほど?
たらりとへんな汗が出て来た。

「――『子供っぽい』って思ってたでしょ!」

「…は?」

余りに的外れな言葉に、次の言い訳を考えていた大河は間抜けな声を出した。
『だって笑ってるように見えたもん』
という綾音の言葉に、何故笑顔を見たにも関わらず、それが『子供っぽい』と思っていることに結び付くのか(散々彼女に『子供』と言ってからかっていたせいもあるが)、そして一体少女は何処まで鈍いのか。と、大河は少しの安堵感と脱力感でいっぱいになった。
彼女に気持ちが届くのは、いつになるのだろう。

「あ、清水くん」

「今度は――」

『――何』と聞こうとして、大河は思わず口をつぐんだ。
トタトタと近づいてきた綾音はそっと手を伸ばした。

「…雪、積もってる」

笑いながら、大河の肩や髪についた雪を優しく払う。
大河は硬直してうごけない。
そのたった一瞬が、何十分にも何時間にも感じられた。

(緊張、した)

離れていく手に、少し安心する。自分が、自分ではなくなるようだ。そんなふうに大河は感じた。
そんな彼の気持ちに気づいているのか、いないのか、綾音はにっこりと笑った。

怒ったり、笑ったり、彼女の表情はクルクルと変わる。見ていて飽きないし、引き込まれる。

すると綾音はハッとして大河を見た。

(今度はなんだ?)

次から次へと、忙しいヤツ。
じぃっと見つめられ、心臓が早鐘を打っている。体温が上がるのがわかった。

「清水くん…寒い?」

「は、」

「だって、なんかほっぺとか赤いし…」

「え…あ、まぁ…寒い…かな」

『そうだよね、せっかく送ってもらってるのに、はしゃいじゃってごめんね』といいながら、綾音はまた新たに行動を開始した。
今度はかばんをガサゴソとあさり始めたかと思うと、紙袋を取り出し、半ば無理矢理大河に押し付けた。

「え…なにこれ…」

今だに状況が掴めず、紙袋と綾音を交互に見る大河に、綾音は少し遠慮がちに言った。

「プレゼント。他のみんなには内緒ね」

「…え、でも…俺なにも用意出来てないし…」

「いいの。私があげたかっただけだから」

『でも…』とそれでも渋る大河に、『そんなに上手じゃないけど、』と紙袋から紺と白の混じったマフラーを取り出し、優しく首に巻いた。

迷った末、大河は彼女へのクリスマスプレゼントを買わなかった。こんな自分が、女子に贈り物なんて似合わない、と。
しかし、その選択をしたことを、大河はとても後悔していた。
(俺は、貰ってばっかりだ)
彼女から、いろんなものを。
じゃあ、自分は、彼女に何をあげられるだろう?

「…あったかい」

首も、心も。

少し照れながら、小さな声でいった言葉は、彼女の大きな笑顔をつくり出した。


…少しずつでいいんだ。
彼女に、このたくさんの溢れそうな気持ちを伝えたい。
自分からも、彼女に何かを贈りたい。

「マネージャー、――」

だから、まずは。
この気持ちを言葉にしていってみよう。



――ありがとう



はらり、雪が降る。

ふわり、君が笑った。



END




クリスマスからかなり遅くなってしまってすみません。
鈍い綾音ちゃんとヘタレ大河になってしまいました…
ほのぼの 甘々が書きたくて、こうなりました。
大人っぽいように見えて臆病な大河と、子供っぽく見えても度胸はある綾音ちゃん(笑)
ちょっといつもとは違う雰囲気の二人でした!

こんなのでよければ、貰ってやって下さい!
あかりさんのみ、お持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました!