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Friends


(一年生、トロール事件直後の設定。)







図書室でずっと読みたかった本を借りることが出来て、ハーマイオニーはご機嫌で談話室に帰ってきた。
するとそこには数人の集団が何かを取り囲んでいた。その中には、最近友達になった魔法界の英雄、ハリー・ポッターの姿もあった。

「あ、ハーマイオニー!」

「ハリー、どうかしたの?」

「それが…ロンが」

「え?」

みんなに取り囲まれていたロンをみて、ハーマイオニーは驚いて固まった。
彼の顔や腕、足などには深い切り傷があり、呪いがかかっていたのかその傷口は紫色になっていた。

「…やぁ、ハーマイオニー」

「ロン。大丈夫?すごく痛そう…一体どうしたの?」

まさかまた喧嘩じゃないでしょうね?と聞くと、ロンはモゴモゴと口ごもった。
そんなロンを見たハーマイオニーは深いため息をついた。

「全く…あなたって人は」

するとロンは少しムッとした顔になった。しかし、何も言わない。微妙な雰囲気に気づいたハリーは、心配そうに二人を見つめた。

「どんなことがあっても、魔法で喧嘩なんてするべきじゃないわ」

『一体何があったの?』と、ハーマイオニーは聞いたが、何となく刺がある話し方になってしまう。
するとロンも
『別に…何も』
と冷たく返した。

その態度にカチンときたハーマイオニー。二人の言い合いは徐々にエスカレートしていく。

「…何よ、心配してるのに!」

「誰も心配してくれなんて頼んでないさ!」

「なんですって!?」

「僕が何をしようと、どうなろうと、君には関係ないんだ!ほっといてくれ!」

そういうとロンはハリーに
『医務室に行ってくる』
と告げて鼻息も荒く立ち去った。

「…ハーマイオニー、」

「……はぁ。またやっちゃったわ…どうしてこうなるのかしら」

心配そうなハリーに、ハーマイオニーはため息混じり言った。

「ハーマイオニーは…ロンが嫌いなのかい?」

「あら、もちろん違うわ。どうして?」

「だって、いつも喧嘩してるし…」

遠慮がちに、ハリーはハーマイオニーに言った。するとハーマイオニーは苦笑しながらぽつぽつと話しはじめた。

「ロンが嫌いなわけでも、喧嘩をしたくてしてるんでもないわ。ただ…あなたやロンのようにありのままぶつかってくれる人って初めてで…それどころか、今まで出来た友達も少ないし…どう接すればいいのかわからなくて。
あなた相手なら、まだ冷静に話せるんだけど…なんでか、ロンだと熱くなっちゃうのよね」

『彼とは喧嘩ばかりだし…友達と思われてない…むしろ嫌われてるかもしれないわ』
そう話す普段と違って弱気な彼女に、ハリーは思わず吹き出した。

「…!ひどいわ、ハリー!真面目な話なのに!」

「ごめんごめん!だって、君とロンってば、同じこというからさ。」

「…同じこと…?」

「うん」

心底可笑しそうに、目尻の涙を拭いながら、ハリーは言った。

「昨日、君にしたのと同じ質問をロンにしたら、君と同じ答が帰ってきたんだよ。
『喧嘩したくてしてるんじゃない、接し方がわからないんだ』『彼女相手だと、なんでかムキになっちゃって…』ってね」

「………」

驚いて声もでないハーマイオニーをよそに、ハリーは続けた。

「それに、ロンだって君を嫌ってるはずないと思うよ。だって──…」






「はぁ…。」

医務室で、マダム・ポンフリーに渡された塗り薬を塗りながら、ロンはため息を零した。

(なんでいつも…こうなっちゃうんだ?)

喧嘩なんかしたくない。彼女だってそう思ってるのはわかってる。さっきだって、あんな言い方でもロンのことを心配してくれていた事はわかっていた。自分と同じ、素直じゃない性格。周りから見れば正反対でも、自分と彼女には似通った点がたくさんあることに、ロンは気づいていた。

(でも…)

ロンがさっきのような態度をとったのにはわけがあったのだ。

突然、手に持っていた薬の感触が無くなり、ロンはハッとした。その瞬間バリーンッと大きな音がして、持っていた薬の容器が割れてしまった。

「あぁ…どうしよう」

ぼうっとしていたせいでほとんど塗れていない。
運がいいことに、マダム・ポンフリーは出掛けているようだった。

「こういう時はどうするんだっけ…えぇと」

(確か…ハリーの眼鏡を直す時にハーマイオニーは…)

『レパロ、直せ!』

背後からかかった高めの声に、ロンはパッと振り返った。

「…ハーマイオニー…」

「ここ、座っていいかしら?」

「え…あ、うん」

薬を拾いあげ、遠慮がちにハーマイオニーに問われて、ロンはアタフタしながら答えた。
しかし、訪れたのは気まずい沈黙。ロンは腕やあしの傷がやけにヒリヒリと痛く感じた。

そうして5分は経ったんじゃないかと思われる長い沈黙を破ったのは、ハーマイオニーの方だった。

「あの…さっきは…ごめんなさい」

「え…?あ、いや…僕こそ…ごめん」

素直に謝れた事に、二人はお互いにホッとしていた。

「…私、不安だったの。」

「不安?」

ハーマイオニーの言葉の意味が良く分からず、ロンは聞き返す。

「私、…あなたに言われたように…今まで友達がいなかったわ」

ロンは気まずそうに俯き目線を泳がせた。

「あなたやハリーと友達になれて、とっても嬉しかったの。でも…友達にどう接したらいいのか、なんてわからなかった…本にも、友達との付き合い方なんて書いてないんだもの…
そしたら、あなた達にちゃんと友達として認められてるのかってだんだん不安になって…
それで…また…嫌われたらどうしようって…」
「だからさっき、あなたに『関係ない』って言われて、悲しくなった…。やっぱり私はまだ…友達には…」

ハーマイオニーは目に涙を溜めながら、これだけの事を一度に言った。
ロンはもう俯いていなかった。ハーマイオニーの目をみて、話に耳を傾けている。

「…だから……ごめ「違うんだ!」

ハーマイオニーの涙ながらの謝罪はロンの強めの声によって遮られた。

「違うんだよ…さっきのは…その…なんというか」

再び口ごもったロンを見て、ハーマイオニーは控えめに笑った。

「…ハリーに聞いたわ…。ロン、あなた…私のために怒って喧嘩したんですってね」

「……!」




それは、ロンが教室に忘れた教科書を取りに行ったときの事。先程まで合同で授業を受けていたハッフルパフ生が、ハーマイオニーの陰口を言っていたのだ。
(なんにも彼女の事を知らないくせに…!)
気がついたら、体は彼らの方へ向かっていた。




ロンの顔が赤く染まった。そしてボソボソと呟いた。

「…まぁ、ね……あそこで言ったら、どうせみんなにからかわれるだろ…?」

「それで『関係ない』っていったのね」

「う゛…」

言葉に詰まるロン。ハーマイオニーは噂話が大好きなパーバティやラベンダーを思い出して、苦笑した。

「いいのよ」

「え…?」

目を丸くしてハーマイオニーを見たロン。
ハーマイオニーは微笑んだ。

「ありがとう、ロン」

「…あ、あぁ」

なんだか気恥ずかしくなって、思わずロンは彼女から目を逸らした。

「…薬、ぬってあげる。腕、出して」

「え、あ、…うん」

ロンはおずおずと腕を差し出した。ハーマイオニーは薬をたっぷり掬い、傷口に優しくぬった。






「でも、やっぱり喧嘩はダメよ。」

「…なんだよ、そんなにグリフィンドールが減点されるの、いやなのか?」

少し拗ねたようにロンがハーマイオニーにしかめっつらを見せると、今度はハーマイオニーが口ごもった。

「もちろん…それも大切だけれど…でもそれより…
私、あなた達にこんなケガして欲しくないのよ」

「……ハーマイオニー…」


『さ、談話室にもどりましょ』と立ち上がったハーマイオニーをロンは呼び止めた。

「ハーマイオニー…その…」

「…?」

「…、また、もしも何か言われたりされたりしたら…いってよ。僕達はいつでも…、君の味方だ。」

友達、なんだから


Friends
(…って言ったわりに今でも一番ハーマイオニーを怒らせたり泣かせたりするのはロンだけどね)
(…ってなんであの時の事知ってるんだよハリー!?)