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23:50


沖田と付き合い始めてから半年が経とうとしていたが、私達の関係は以前とあまり変わらず、相変わらずケンカばかりしていた。

否、一緒にいる時間が増えたせいか、ケンカも増えた。
しかし、ケンカの内容は殴り合いばかりのあの頃とは違い、口論が増えていた。
…まぁ、結局は殴り合いに発展するのだが。

とある日にはドラマを見ていたときの意見の食い違いからケンカになったり、
またあるときは私のお気に入りのピン子のDVDを、アイツが勝手に持ち出し、
怒った私がアイツのゲームのクリア寸前のデータをレベル1にして上書きしたのが原因だったり。


そして、今日。
私は不機嫌だった。

『今日さ、怖いDVD見ながら夜明かししようぜ。晩の8時には帰るから、俺の部屋で待ってな』

そう言って仕事に向かったアイツだったが、現在21時30分。
私のイライラはピークに達していた。
ジミーでも殴ってストレスを発散しようかとおもったが、やめた。

(大体怖いDVD見ながら夜明かしってありえねーダロ!きっと私をからかうつもりネ!だったらさっさと万事屋に帰って…)

しかし沖田と一緒にいたいと思う自分がいるのも事実だった。

(あともうちょっとだけアル…)

私は何か面白い物はないか、と、周りをキョロキョロと見渡した。
男子の多くが何かを隠しているというベッドの下を見てみると、大きな箱が置いてあった。

そのなかには、一回り小さな箱が入っていた。
興味津々で箱を開けた私は、目を輝かせた。
そこには…

「…ケーキアル〜!!」

そう。丸いショートケーキが食べてくれとばかりに私を見つめていたのだ。これはもう食べるしかない。

早く帰って来なかったお返しとばかりに、私はケーキにかぶりついた。

でも、そのケーキは甘いはずなのに、なんだかしょっぱかった気がした。







沖田は本当に私を好きなんだろうか。
ガサツで大食いで、全然女らしくない、優しくもないこの私を。

私はすごく不安だった。
いつか『別れよう』って言われるんじゃないかって。

なのに、私は素直になれずに、いつもアイツを困らせてしまう。
嫌いにならないでほしいのに…






突然体を揺すぶられて、私は目を覚ました。
「アレ…私…寝てたアルか…?」

「チャイナ…悪ィ、遅くなった」

「沖田…」

いつのまにか目の前に、疲れきった沖田の顔。
その顔を見て(ケーキを食べてすっきりしたのもあるが)、先程までの怒りが少し萎んだ気がした。

「遅いヨ!」

「すまねェな。思ったより長引いた。」

時計をみると、もう23時30分だった。
そして、沖田の目線を追うと、私が食べ散らかしたケーキにたどり着いた。

「おまっ…食べちまったのか!?」

珍しく慌てた様子の沖田に、私はなんだか満足した。

「遅かったお前が悪いネ。ひどいヨ!あんなおっきいの一人占めしようとするなんて!」

「はぁ!?何言ってんでィ、あれはお前のために…!」

ハッとして沖田は口をつぐんだ。しかし、私が聞き漏らすわけもなく。

「私の…ため、って…?」

すると沖田はばつが悪そうに目を逸らし、小さな声で言った。

「…お前、明日…誕生日、だろィ?」

「え…」

私はバッと部屋のカレンダーを見た。
11月2日。
たしかに明日は私の誕生日だった。
すっかり忘れていた。


(じゃあ、沖田が怖いDVD一晩中見ようって言ったのは…)

3日になる調度その時にお祝いするための、
私を呼び出す無理矢理な口実で
私をびっくりさせるために、喜ばせるために…
そのためにこっそり買ってきたケーキだった…?
仕事の後で疲れてるのに…私のため…?


(なのに私は…)

遅い遅いとずっとイライラしていた挙げ句、沖田が用意してくれたケーキを食べ、彼の気持ちを踏みにじり…
しかも、沖田は私のことを好きなんだろうか、なんて…

私は…なんて最低なんだろう…


「まぁ、知らなかったんだし…俺も悪……って…!おい、何泣いてんでィ…!」

「……っ」

涙を止められなかった。
自分の情けなさに。
沖田はずっと私のことを思ってくれていたのに。
私は自分ばっかりで、気づけてなかったのは、私だった。




23時50分。
突然立ち上がった沖田は
『待ってろ』
と言って、部屋から出て行ってしまった。
一人取り残された私は、どうしようもない気持ちでいっぱいだった。
そして再び、不安に駆られた。



23時57分。
息を切らして沖田が帰ってきた。その手には…

「…ほら。コンビニのだから小せェけど」

ショートケーキやチョコレートケーキなど、様々なケーキが入った箱が握られていた。

私は思わず、沖田に抱き着いた。



23時59分。
ろうそくに灯をつけて、電気を消す。

「神楽、」



24時00分。


誕生日おめでとう







総悟と二人で食べた小さなケーキは、
一人で食べた大きなケーキの何倍もおいしかった



END










神楽ちゃんお誕生日おめでとう!
間に合ってよかった。

結局終わりが去年と似た感じだけど…許して下さい…

たまには甘々な二人が書きたかった!
微妙な出来だけど、満足!


タイトルはガルデモ(AB!)の曲『23:50』から
ひなユイでもおっかぐでもいけるよ!

歌詞↓


ふたりの間には色々あった
趣味の違いに共に掃除しない
料理はお前が克服しろと
そんな一方的な命令を下す

こんなふたり笑い合って
過ごせる日がいつか来るかな

お気に入りのDVDがない
君がまた勝手に持ち出したんだ
代わりにクリア寸前のゲームを
レベル1にして上書いてやろう

こんなことを繰り返して
お互い損ばかりしている

でも不思議なほど君を好きなままでいるんだよ
だから安心してほしい 死ぬ時まで一緒にいるよ
ああ なに言ってんだ 顔が熱い!

君が帰ってくるのが遅いから
隠してあったケーキ食べちゃったよ
あれ? 今日あたしの誕生日だっけ?
ひとりで食べちゃった 涙こぼれる

こんなふたり笑い合って
過ごせる日がいつか来るかな

もう泣くのは我慢する
君がコンビニまで行って
代わりを買ってきてくれる
だからあたし笑ってるよ
ほら 急いでよ 後10分