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さよならメモリーズ


「よしっ、まあまあかな」

薫はニッコリ笑ったあと、少し寂しそうに手の中の物を見つめた。











さよならメモリーズ








桜の蕾が色づき始めた頃。三船東中学では卒業式が行われ、それぞれが友人達との別れを惜しんでいた。
そんな中、吾郎はキョロキョロと周りを見渡し、とある人物を探していた。

「本田くん」

「よお、本田」

「小森、沢村…」

彼に声をかけてきたのはリトル時代からの友人だった。

「今から野球部の奴らも一緒にカラオケでも行くかって話してたんだけどさ」

「本田くんどうする?」

「あー…」

吾郎は落ち着きなくソワソワとしていた。

「わりィな、俺、明日の準備あっから…」

「あ、そっか。本田くん、明日から行くんだったね」

「あぁ、まあな」

「頑張ってこいよ」

「おう。…ところでさ」

吾郎は微妙な表情をしながら、二人に聞いた。

「…清水知らねぇか?」

「清水さん?さっき部室の方でソフト部の子と話してるのみたよ」

「…そうか、サンキュー」

そう言うと、小森とニヤニヤ笑う沢村を尻目に吾郎は駆け出した。






「清水」

「!本田…」

背後から突然現れた幼なじみに、薫は驚いた。
周りのチームメイト達はそそくさと立ち去った。

「わりィ、話し中だったか?」

「や、大丈夫。あの子らは高校も一緒だから」

「…そうか」

「………」

「………」

少しの沈黙があった後、薫は口を開いた。

「…で、どうしたんだ?」

「……いや…明日出発だから、さ。一言挨拶しとこうかと思ってよ」

「……そっか。ちょうどよかった、あたしもアンタん家行こうと思ってたんだよ」

「え?」

薫は鞄から何かを取り出し、吾郎に渡した。
それをみた吾郎は目を丸くした。

「これ…」

それは白い文字で『必勝!』と刺繍された赤い小さなお守りだった。

「まぁ…ご利益があるかは保障しないけど…」

「お前がつくったのか!?」

「お、おう…」

「…すげえ」

珍しく素直な吾郎の言葉に、薫はほんのり顔を赤くした。

「明日の朝持っていこうかとも思ったんだけどさ、出発前だし、忙しいかなって思ってさ」

「…そっか。」

ニッコリ笑った薫を見て、吾郎もニッと笑った。
それから何を思ったのか、突然制服に手をかける。



「んじゃ、これ。お前にやるわ」

そういって薫に渡されたのは、吾郎の制服の第二ボタンだった。

「…え…!でも…これ…」

「女子がくれってうるさくてよ。よくしらねぇ奴にやるよか、お前にやる方がましだろ?」

どこか照れ臭そうに話す吾郎を、薫はぽかんとして見ていた。

「……な、なんだよ。いらねぇのか?」

「…!…ううん!ありがとう…大事に…するよ」

笑顔でそういう薫の目には涙が浮かぶ。

「…頑張れよ」

「ああ」

「……甲子園…絶対応援、行くから…」

「……ああ」

吾郎は彼女の頭を優しくポンポンと撫でた。







春が来たら、それぞれの道を










タイトルはsupercellの私の好きな曲から
こんなやりとり、あったはず!