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プロレス技には愛を込めて


「ひなっちせんぱぁーいっ!」

ある日の昼下がり。聞こえてきた高い声に、俺、日向秀樹はため息をつく。

「あーっ!今ひなっち先輩ため息つきやがりましたね!?ひどいですよー!こんなに可愛いユイにゃんがわざわざ先輩に会いにきたのに〜!」

そういってむぅっと頬を膨らませたピンク色の髪の小娘、ユイ。球技大会で同じチームになってから、すっかり懐かれてしまったようだった。ガルデモの練習が終わると、こうして俺に会いに…というか、バカにしにやって来る。


「…うっせぇなぁ。なんの用だよ?」

「ふぇ?あ、や、特に用はないんですけど…
しいていえば、『新技かけさせてください』みたいな?」

「しいて言うな!いっぺん死んで来い!」

「やっだなぁ、あたし達もう死んでるじゃないッスか!」

『先輩アホですね〜』
とけらけら笑うユイにプチッと来ていつものようにプロレス技をかけてやる。

「どぅぁぁあれがアホだぁぁあ!!!」

「ギャァァア!!!!痛い!痛いです先輩ィィイ!!ギブギブ!」

ユイの意識が飛びそうになったところで、ようやく解放する。

「お〜い、大丈夫か?」

「大丈夫な訳あるかぁぁあ!!先輩の鬼!悪魔!」

「な、先にアホって言ったのはお前だろうが!」

「レディーにプロレスかけるとかありえないですよ!」

「…レディーがプロレスかけんのはいいのかよ…」

呆れたようにユイを見た。
するとユイは
『だってひなっち先輩だもん』と訳がわからないことを堂々と言ってのけた。

「だいたいなんで俺なんだよ…他に女でもプロレスやってくれる奴いるんじゃねーの?」

『女でも』を強く言う。
…正直、俺以外の男とユイがプロレスするのはあまり嬉しくないから。

「…えー…だって…ガルデモの皆さんには技なんてかけられないし、ゆりっぺ先輩や椎名先輩に技かけたりなんかしたら本気で殺されちゃいそうだし…」

「音無先輩とか大山先輩には気を使って本気で技かけられないし、野田先輩や五段先輩とか藤巻先輩、TK先輩は潰されちゃいそうだし…」

ユイの言葉を聞いていた俺は思った。

(…てことはなんだ?俺は消去法で選ばれたってことなのか!?)

ふつふつと怒りが沸いてきて、一言ユイに言ってやろうと口を開いた時。

「…ひなっち先輩なら、気を使わずに技かけられるし…でも先輩は優しいからユイが大丈夫なようにギリギリの力で技かけてくれるもんね」

『結局いつもユイに構ってくれるのは先輩だし』と照れながら小さい声で言うユイに、さっきの怒りはしぼんでいく。

「…ユイ…」

「…ひなっち先輩…」

「………」

「………」

自分を見つめる大きな赤い瞳。心臓の音が大きくなる。

(なんだ…こいつ…
ガキだけど…アホだけど…
可愛いじゃねぇか)

「…、ユイ…!」

「先輩………!


………てことで!!」

「は、」

訳がわからぬままいきなり掴まれる腕。

「新技かけさせてもらいます!」

「はあ!?ちょ、ちょっと待……うがぁぁあっ!!?」

投げられ、締め上げられ、抑えつけられながらも、ユイのイキイキとした表情をみて、

(まぁ、いいか…)

とまたユイを甘やかしてしまう俺だった。



END