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てのひらの上で【前編】


ここは聖秀学院高校。清水薫は、朝から違和感を感じていた。

「……」

(…なんか、やたら視線を感じる…気のせいかな)

おかしなところでもあるのか、と、トイレで何度も確認したが、特に変わった様子はなかった。

(やっぱり気のせいだよな)

そう思って、薫は特に気にしないことにした。

しかし、それは昼休みに発覚した。







「薫ーっ!」

「?麻優?」

違うクラスの友人が、薫の方へニヤニヤしながらやってきた。

「聞いたわよー!水臭いじゃん!なんで教えてくれなかったのよ!」

「へ!?何が?」

「またまたぁ、とぼけちゃって!」

背中をバシバシと叩かれ、薫は咳込むが、友人の次の一言に、固まった。




「付き合ってるんでしょ?茂野くんと!」





………はい?

凍る薫、静まる教室。
クラスメイト達の視線は薫に集まっていた。
そこで薫は、視線の原因がそのことのせいであると気が付いた。

「…な、なにそれ!?誰よ、そんなデタラメいいふらしてんの!」

(こんなの本田が聞いたら気まずくなるじゃん…!)

「またぁ、照れちゃってこの子はぁ」

「照れてない!」

バッとクラスメイトの方に振り向く。

「誰が言い出したのか、誰か知らない?」

「んー、みんな言ってたしねぇ…。」

「うん、隣のクラスの子達とか」

(そんなに広がってんのか…!)

クラスの女子達の言葉にガク然とした薫だったが、ある一人の言葉に顔をあげる。

「あたし、E組の円が言い触らしてるのみたわよ」

「円ぁ?」

E組の円といえば、噂好きで有名だ。
怒りを抑え、薫は立ち上がった。

「ちょっと円に話聞いてくる!」








「うん、噂流したの、あたし。」

あっさりと認めた彼女に、薫は気がぬけ、思わずこけそうになった。

「なんでそんなデタラメを…!」

「え?だって付き合ってるんじゃないの?薫と茂野くん」

「付き合ってません!」

昔から散々冷やかされてきた薫だったが今回は本当に堪忍袋の緒が切れたようだった。

「根拠もないのに、変な噂流さないでよ!」

「根拠ならあるよ」

「はぁ?」

「だって、本人が、そう言ってたんだもん」

円の言葉にわけがわからなくなる薫。

「聞いたのよ。茂野くんが『清水と付き合ってる』って言ったのを」












「ほーんーだぁー!!」

恐ろしい形相で駆けてきた薫に、吾郎は驚いて目を白黒させた。

「うわ、な、なんだよ清水」

再びクラス中の視線を感じ、薫は吾郎の襟首を掴む。

「ちょっとこい!」

「ぐわ、ちょ、なんだよ」

「いーから!」

薫は引きずるように吾郎を屋上へ連れて行き、入口を閉め、吾郎に向き直る。

「何なんだよ、一体?」

「『何なんだよ』はこっちの台詞だよ!」

「はぁ?」

わけがわからない、といった感じの吾郎を、薫が睨みつける。

「…あんた、本当に言ったのっ!?」

「…何をだよ?」

「〜〜っ!だから!…あの」

どこか歯切れが悪い薫に、首を傾げる吾郎。

「ほ、本田とあたしが、付き合ってるって!」

「なっ…」

瞬時に赤くなり、固まる吾郎。その様子を見て、薫は思った。

(…やっぱり。本田がそんなこと言うわけないもんな)

しかし吾郎の返事は薫の予想外のものだった。

「なんでお前がそのこと知ってんだ!?」

「…はい!?」








中編へ続く