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優しすぎるキミ、甘えすぎたあたし


薄暗い空を、不安そうに見つめる少女がいた。

(…雨…降りそう…)

少女──雛森桃は、慌てて五番隊へ届けられた書類の整理を再開した。



その少しあと、再び外へ目をやり、彼女はわずかに顔を歪めた。
外は雨が降り出していた。

彼女は雨が嫌いなわけではない。じめじめとしているのは確かにうっとうしいが、落ち着いた気持ちになれる。
むしろ、彼女は雨が好きだった。

その彼女が今見つめているのは、雨ではなく雲の方だった。

彼女の心配していることは別にあったのだ。







ゴロゴロ…と低い音がして、桃はビクリ、と肩をゆらした。
ピカッと光る空。
恐れていた自体が起こってしまったのだ。



誰もいない部屋の隅で、桃は仕事も手につかないくらい怯えていた。
彼女は幼い頃から雷が苦手だった。

(でも、)

あの頃ははすぐ恐くなくなるの、だって──










「シロちゃん」

今日と同じ様に雷が鳴っている夜。

すぐに眠ってしまう祖母と違い、なかなか寝付けない桃は決まって、冬獅郎のところへやって来ていた。

「か、雷、恐くない?寝れるまで一緒にいてあげようか?」

「……」

冬獅郎は一瞬呆れたように桃を見ると、小さくため息をついた。

「…べつに恐くねーよ」

「……そ…そう…」

「でも」

“昼寝したからまだ眠くない”

ふいっと顔を背けながらいう冬獅郎をみて、桃は微笑む。
冬獅郎は昼寝なんてしていなかった。
桃はそれを知っていた。

ぶっきらぼうで可愛くない彼の優しさに、桃はいつも甘えてしまうのだ。

結局いつだって先に寝てしまうのは桃の方で、冬獅郎は、彼女が眠るまでずっと起きていてくれた。

年下で、背も自分よりずっと低い彼が、すごく大きく感じることが何度もあった。

困った時、つらいとき。
助けてくれるのも、優しく癒してくれるのも、叱ってくれるのも…いつも、いつだって彼だった。








「雛森?」

暗闇のなか、自分を呼ぶ聞き慣れた声に、桃は顔をあげた。
うっすら見えてきたその姿は、他でもない、先程まで考えていた彼だった。

「シロちゃん…」

「なにやってんだよ、こんな真っ暗で」

「……書類の整理」

冬獅郎は山積みにされた五番隊向けの書類を見て、呆れたように桃を見た。

「こんな暗くてできるわけねぇだろ」

「でも…」

ちらっと外を見て、桃は俯いた。

「落ちねェよ」

電気をつけ、冬獅郎は椅子に座り、書類を手に取った。

雷が苦手とばれていたことを恥ずかしく思いながらも、桃は慌てて冬獅郎の向かいに座った。

「シロちゃん」

「“日番谷隊長”だ」

「…ごめんね」

「……何が」

日番谷は小さくため息をついた。

「お前、謝るようなことしてんのかよ」

「………」

言葉が見つからず、桃は俯いた。

「いいんだよ。どうせ今日は暇だったんだ」



(…また、だ)

桃は困ったように笑った。

乱菊さんは今日もお昼からお酒を飲んでたもん。
暇だったなんて嘘だわ。

どうして?



「…どうして、シロちゃんは私に優しくしてくれるの…?」

「あ?」

あんなにひどいこと…今までたくさんしてきたのに…


桃は言わなかったが、冬獅郎には彼女の言わんとすることがわかった。

(どうしてって…)

「…んなの、当たり前だろ」

「…え?」

キョトンとする桃に、冬獅郎は照れ臭そうに言った。

「お前が大切だからだよ」

外は相変わらず荒れ模様だったが、もう桃は恐くなかった。

二人の心は穏やかだった。







優しすぎるキミ、甘えすぎた私
結局桃はまたいつの間にか寝ていて、起きると書類はすべて片付いていたのだった。



END



そらさん、お待たせしました!

甘々…とのリクエストでしたが…
甘くなくてすみません…
私の力ではこれが精一杯でしたっ!

日番谷は雛森をいつも気遣ってて…それは気遣ってるというよりも彼女が恋愛の意味で気になってるんです。
でも、雛森は気付かなくて、なぜなのか分からなくて。
気がつくと彼の存在がどんどん大きくなっている。

そんな感じを出したかったのですが…撃沈しました。

タイトルは近藤夏子さんが歌っている歌詞からとりました。


返品&書き直し受け付けます。
リクエストありがとうございました!