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鈍感な彼の台詞


「…暑いアル」

「…じゃあ帰れば」

いつもの公園に、いつもの少年と少女の姿。しかし、いつもと違い、今日は喧嘩をしていない。ギラギラと照りつける太陽。このうだるような暑さに、喧嘩する気も失せたらしい。

「帰ったってなにもないアル
扇風機も壊れたし、冷たいものもなにもないネ」

「へー、そりゃお気の毒なこっで」

「全然そう思ってるように聞こえないアル

…なんか…頭フラフラするネ」

ボーっとベンチに座っている神楽をみて、ふと思う。

(そーか…こいつ『夜兎族』だっけ)

夜兎族が太陽の光に弱いということは総悟もしっていた。

それきり会話は途切れた。聞こえるのはうるさい蝉の声だけ。





「…暑ィなァ…」

「…なら帰れヨ」

神楽の方を見ると彼女も総悟をみていた。
総悟はポケットに手を突っ込み、ベンチから立ち上がった。

「んじゃ、帰るわ」

「・・・」

そのまま振り返らずに立ち去る総悟を、神楽は見つめていた。




(別に…心配してくれるなんて期待してないし)

少しふてくされたあと神楽は暑い体を少しでも冷まそうと手で仰いだ。
だが、すぐにそれさえもつらくなり、ベンチにもたれかかった。







ピト

「ギャア!」

頬にあたった冷たい感触に、神楽は飛び上がった。

「うっわ、色気ねー声。」

「…!サド…」

『何するアルか…!』と涙目で睨みつける。

「ん」

と差し出された、先ほどの冷たい物体。

「オレンジジュース…?」

疑わしげに総悟を見る神楽。

「…なんも入ってねェよ」

それでも、少し神楽は悩んだ末、恐る恐る口をつけて、コクリと飲んだ。


「…!おいしっ!生き返ったアル!」

「だろ?…姉上も好きだったんでィ」

「…ふぅん。」

総悟の姉について、銀時から聞いていた神楽は、うつむいた。

その瞬間、パッとオレンジジュースは神楽の手を離れ、そのまま総悟の口元へ───



「あ゛ぁぁぁあ!!」

「なんでェ、買ってきたのは俺だぜィ?
一口くらいいいだろ?」

『ほら』と返されたオレンジジュースを両手で持ち、神楽は真っ赤になって固まってしまった。

「じゃあな」

と総悟は再び背を向け、去っていった。



(この鈍感男め!)

神楽はこころのなかで叫んだ。





END

彼が確信犯だと気付くのは、まだまだ先のこと。