青春してるかい!


「ネジが!? あ の ネ ジ が!?」

 私は驚きのあまり身を乗り出して、そのままどひゃぁと後ろにひっくり返った。

 超絶奥手で俺は恋愛なんかに興味ありませんという澄まし顔をしていた男に、ついに春がやって来たらしい。今、夏だけど。



 最近なんだか、里のあちこちでカップルが出来上がりつつある。なんだろう、この熱さは。

 みんな、夏の暑さにやられたんじゃないのかしら。


 私にはそんなお熱い話は一向に来ない。そりゃそーか。ずっと興味がない、って顔して来たんだもの。

 ネジとリー以外に、特別仲良しな男の子もいない。



 正直、恋がしたいかと言うと、ちょっと悩む。
 だけど、こうも私一人だけ置いていかれるのってどうなのよ。
 寂しいじゃない。
 私だけ誰もいないなんて。



 あと一人なのって誰かいたかしらと仲間の顔を浮かべてみたが、次々にペケマークで消され、最終的に残ったのはリーの顔だけだった。

 そうか、アイツも相手がいないんだ。

 不思議だな。アイツいい奴なのに。








「というわけなのよねぇ」


 翌日の帰り道、リーと一緒に歩きながら、さっそく私は昨日の話を聞かせてやった。

「あのネジが彼女ゲットしたーなんて、聞いてないわよ」
「それはボクも初耳でした」
「そうよね。付き合うんなら、付き合うって言ってくれればいいのに」
「ネジも水臭いですね」
「そうよ。一体誰がアイツの相談に乗ってやったと思ってるのかしら」
「ボクたちに一言くらい報告があってもよさそうなのに」


 今度会ったらネジをとっちめてやろう、とリーと顔を見合わせる。
 ネジの幸せを一番願っていたのは、私たち二人なんだから、その私たちに一言もないなんて、ネジの奴、許せない。

 ねー、と二人で意気投合しながら、のんきな夕方だなぁ、と思った。
 傾きかけた日が、火影岩を赤く染める。遠くの空で、カァカァ、と烏が鳴いた。

 リーが、うんうん、と一生懸命に聞いてくれるものだから、私はつい気持ちがよくなって、とりとめのないおしゃべりを続けた。

「ネジがくっついたとなると、あと居残り組は、アンタと私くらいなのよ」
「ええっ!? そうなんですか?」
「そうよ。いつの間にかみーんな良い人見つけちゃって」

 ふと、私は歩みを止めた。
 ずっと横に並んでいたリーが、一歩前に出て振り返る。

「ねぇ、リー、私いいこと思いついちゃったのよ」
「はい?」


 それは本当に、ほんの気まぐれの冗談で言った言葉だった。


「私たちも付き合っちゃおうか」


 残り者同士がくっつけば、余りが出ないな、そんな発想だった。
 もちろん、冗談よ。

 冷めてる私はともかく、リーにはきっと、もっと素敵な恋があるに違いないと思っていた。
 だから、冗談だと言って笑ってくれるはずだったのに。
 だから、そんなフザケた思いつきの告白を本気にするはずなんかないのに。

 それなのにリーは思いもよらない反応を返した。

「……え!?」
 大きな黒い目が、ざわざわと泳ぐ。
 リーはパッと顔を背けた。
 その耳が赤いのは夕日のせい?

 それとも。



 あれ?
 ここ、笑うところよ、リー。
 そんな顔しないでよ。そんな、好きな子に告白されてしまった、みたいな、うろたえ方しないでよ。



 冗談はよしてください、と言って笑ってくれるはずだったのに。
 ううん、私が嘘よって笑い飛ばせばよかったのに。


 二人の間に流れる、妙な沈黙。

 
 こんなはずじゃなかったのに。


 リーの動揺が伝染したかのように、私まで何だか不安定な気持ちになって顔が火照ってくる。


 どうしてこうなるの?




「あの……っ、テンテン! 今日はお疲れさまでした!」

 リーが唐突に私の方へ頭を下げた。
 その勢いに私はびっくりして固まって、脱兎のごとく走り去るリーを呆然と見送った。

 私たちの別れ道は、もう少し先の十字路のはずなのに、リーは一人で帰ってしまった。



「ええええ!?」

 私はややあって、突然大きな声を出した。道行く人が振り返ったが、そんなのはもうどうでもいい。


 だって、ねぇ。
 何なの?
 これ、どういうこと?

 ねぇ、リー。
 その、まるで私のことが好き、みたいな反応は、何?







 どうしよう。

 明日から、どんな顔をしてリーに会えばいいのか、私にはわからなくなってしまった。



(101123)
テンテンもリーも初書きだよ…

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