愛の言葉
「馬鹿っ!」
それまで「いい子」と言われて育った俺に、その一言は強烈なボディーブローのように、よく効いた。
実際、俺はすこぶるいい子にしていたわけで怒鳴られるというのは実に稀有な経験で、結構ショックだった。
先生は見たことないくらい鋭い目をして怒っている。俺がヘマをしたから――
泣くなんてみっともない。なけなしのプライドがそう言うのに、――先生に嫌われる――その可能性に、プライドなんて、あっさり崩れ落ちそうだった。
「でも……!」
声が震えて、言葉が続かない。
じりじりと時がすぎる。
先生が、にわかに動いた。打たれる――そう思って目をつむった瞬間、俺はぎゅうっと抱きしめられていた。
「せ、先生?」
「カカシの馬鹿」
「先生、怒ってますよね?」
「怒ってるよ」
「じゃあ何で……」
そんなに大事そうに俺を抱きしめるの。
「カカシは俺のためにって頑張ってくれたんだよね」
「……は、い」
「でも無茶はしないでよ。心臓止まるかと思ったじゃない」
「……先生」
「うん?」
「俺のこと嫌いにならない?」
「好きだから怒るんだよ」
泣くなんてみっともない――のに、先生の一言が嬉しくて涙が止まらなかった。
(101207)
カカシは怒られた瞬間に惚れる、という傾向がある(私の中で)。
わりとチヤホヤされる子供だったろうから褒められることには慣れているが、怒られることには耐性がないんじゃなかろうか。
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