まちぼうけのあさ


「うー、寒ぃ!」

 風もないのに空気が冷たすぎて、15分もそこにいれば手がかじかんで来る。ああ、手袋を忘れたんだ、と気がついたけれど取りに帰ることはできない。待ち合わせの時間はもう過ぎているから、いつカカシが来てもおかしくはないのだ。

 それにしても相変わらず、来ない。遅い。

 こんなことだろうとは思っていたけれど、あまりにもお約束過ぎて嫌になる。さらに、そうとわかっていたのに、楽しみにして浮かれて、早く来て待ちぼうけを食らっている自分が馬鹿馬鹿しい。

「あーっ、もう何やってんだ先生!」
 寒過ぎて凍ってしまわないように口と体を動かす。

 いい加減に待ちくたびれて、そろそろ迎えに行こうか、とナルトは快晴の寒空を仰いだ。白に近い薄い水色の空が広がっていた。


 カカシはどうしていつも遅刻ばっかりするのか。

 昔は、どうせ寝坊だろうと思っていた。もしくは、めんどくさがってグズグズしているうちに時間が押してしまうのか。

『え? あの人、朝は馬鹿みたいに早いけどね』
 と教えてくれたのはヤマトだった。
『じゃあ何でいっつも来ねーんだってばよ。何してんの?』
 そう聞くとヤマトは困りながらその場所を教えてくれた。

 ――慰霊碑。

 それからはカカシが来ないと思ってそこに行くと、彼は必ずそこにいた。朧げに慰霊碑を見つめて、何をするでもなく、ただ佇んでいるだけだ。その背中はぴくりとも動かない。

 見つけたなら、さっさと声をかければいい。遅い、何やってんだ、待たせんのもいい加減にしろ、そう詰ってやればいいのに、カカシを見つけたナルトは動けなかった。

 カカシの背中が、まるで世界を丸ごと拒絶するようで、自分の入る余地がない気がして近寄れない。
 この冷たい空気が、ただ冬の寒さのせいだけではないように思えて。



 チチ、と鳥が鳴いた。

 カカシがふと顔を上げ、それから振り向く。
「ナルト」
 目が合った。
「何してんのよ、お前」
 先生こそ、と言おうとする口がうまく開かなかった。
「あ、やだなぁ、また時間過ぎちゃった。ゴメーン」
 カカシは相変わらず悪びれる様子もない。ナルトはムッとしながらその手を取って、ぐっと引いた。
「早く行こう、先生」
「ハイハイ」
 何となく顔が見れなくてナルトは振り向かなかった。いや、見たくなかった。いつも何も考えてなさそうに笑う男が、真摯な顔をして過去に囚われている姿は見たくない。いつも優しく笑いかけてくれる目が見ているのが、実は自分ではなく、その面影の向こうにある人のことかもしれない、なんてことを考えたくなかった。

 早くそこから連れ去ってしまいたくて、ナルトはずんずんと進む。

「ナルト、ごめんって」
「先生何が悪いかわかってる?」
「待たせたからでしょ」

 しょーがないから何かおごってやるよ、と冗談めかして言ったカカシの手を、ナルトはぎゅっと握りしめた。

 遅刻を怒っているわけではない。ただ悲しかった。過去の入り込む隙間を埋めてしまいたいのに、そうする力のない自分に腹が立って、悲しかった。

「じゃあ先生、一楽で大盛りね!」

 沈む気分をごまかすように声を張り上げる。

「またぁ? たまには他んとこ行こうよ」
「待たせた罰だってばよ!」

 あんたはこっち側の人間だ、そっちには行かせない、そういう想いを込めて握った手は、思いのほか温かかく、しっかりと手ごたえがあった。



(101228)
タイトル(C)確かに恋だった

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