やさしいてのひら


※ちょっぴり未来編
















「ああ、もう……今年もおしまいなんですねぇ」
 なんてことを呟きながら、シズネは帳簿とにらめっこしている。忘年会の準備、だそうだ。
「もう、か」
「早かったですねぇ」
「早すぎて、何だかよくわからなかったよ」

 思わずふっと笑ってしまった。この歳になると、一年なんぞアッと言う間だ。恐ろしく時間が過ぎるのが早くなった。

「あ、そうそう。今年はナルトくんたちも呼べるんですねー」

 シズネの言葉に、今年二十歳になったガキどもの顔を浮かべる。ほんの少し前まで小さな子供だと思っていたのに、もう酒が飲めるようになったか、と思うと感慨深いものがあった。

「もうそんなに経つのか……」

 驚いた。

 気がつけば、あの日から四年が過ぎている。四年という年月は、短いようで長いようで、子供たちをすっかり大人にしてしまった。里はすっかり復興をとげ、元の姿に戻ろうとしている。あの日の影は、次第に薄くなっていた。

 それなのに、私は未だにはっきりと覚えている。私をなぐさめるように、元気づけるように、ぽんと頭におかれた手の感触を。
 男の手のぬくもりを、まだ忘れてはいなかった。不思議なくらい鮮明に今でも思い出せる。

 もう死んで四年になるというのに。

 それを昨日のことのように思い出すのは、月日が経つのが早すぎて感覚がおかしくなっているせいだろうか。それとも、あの歳になって頭を撫でられるという行為があまりに珍しくて衝撃的だったせいなのか……。


 ずっとくだらない関係を続けていたというのに、最後の最後に余計なものを残していきやがって――内心苦い思いがした。

 あの男に対する感傷などいらない。
 思い出もいらない。
 きれいさっぱり、忘れてやりたかった。
 そうして、いつかのように、お前など知らん! と悪態をついて、追い払ってしまいたかった。


 それができないのは死人に対する後ろめたさか。


 しかし、それだけではこの気持ちに理屈をつけることができなかった。



 (そんなに湿っぽい関係じゃなかったはずなのに)






(1008??)
過去振り返りパターンが大好きのようだ。
タイトル(C)確かに恋だった



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