幸せ連鎖


 結局僕にできることなんて何もないのだと思い知らされる。戦闘力は埋められても、心にできた風穴までは塞げない。

 人が人をどうにかしようなんておこがましいのかもしれない。
 それでも僕はあなたを幸せにしたい、なんて言ったら滑稽かもしれませんけど。





 うっかり口走ったら空気がえらく重たくなって参った。ナルトもサクラもカカシ先輩も、さっきまであんなに楽しそうにしていたはずのに今や口をきくのも億劫という感じだ。
 サイだけが自分は関係ないとばかりに涼しい顔をしている。
 ああ、僕としたことが。どうしてうちはサスケの名前なんて出しちゃったんだ、こうなることはわかってたのに。
「……それじゃ、解散にしようか」
 ごめん、と謝るのも変な気がして、苦し紛れにそう言った。はぁい、と覇気のない返事が二つと、サイの場違いなまでの笑顔で、その場はお開きとなる。とぼとぼと肩を落として帰る二人(と、やけに背筋の伸びた一人)を見送ってから先輩が言った。
「ヤマト、あいつらにサスケは禁句だから」
 そんなこと、言われなくとも知っている。この第七班が、うちはサスケというピースを失ってから非常に危ういバランスを保っているのだということくらい、僕にもわかる。
「あんまり思い出させないでやってよ。凹んじゃうんだよね」
「……すみません、気をつけます」
「俺に謝る必要はないけどさ」
 カカシ先輩はくるりと踵を返す。
 その背中に、本当にあいつらのためですか? と聞きたくなった。凹んでるのは、あなたじゃないんですか、カカシ先輩。

 僕にはわからない、どうしてそれ程までにうちはサスケにこだわるのか。
 理由は三者それぞれにあるのかもしれないが、実際うちはサスケと接したことのない僕にとって、それはあくまで想像に過ぎない。

 もういいんじゃないか、忘れてもいいんじゃないか。
 そう思ってしまうのは僕が外の人間だからだ。お前に何がわかる、と言われてしまえばそれまでのこと。
 結局僕には何もわからないのだ。だからつい軽率な発言をする。頭でわかっていても、実体として掴めないから。

「もういいんじゃないかと思うんだよね、俺はさ」
 先輩の呟きはオレンジの夕暮れに吸い込まれていった。さらりと言われて面食らう。先輩はどうして、こうも思ってもいないことを平然と言うのがうまいのだろうか。呆れたものだ。
「変なこと言わないで下さいよ」
「変? ヤマトだってそう思ってるでしょ」
 先輩が珍しく弱音を吐くのは、黄昏れた秋の空が妙に哀愁を漂わせているからだろうか。
 こんなカカシ先輩は絶対にナルトたちには見せられない。
「そうですね」
 と相槌を打つと、先輩は些かムッと顔をしかめた。自分で言っておきながら、肯定されるのが許せない、とでも言うようだ。
「でも僕も、諦めようとは思っていませんよ」
「取って付けた様に言わなくていいよ」
 先輩は皮肉っぽく笑った。そんなつもりはない、と言って、どこまで信じてもらえるだろうか。
「本当ですよ。ナルトやサクラのためでもない、あなたのためでもない、僕のために、そう思うんです」
「何でお前のためなのよ。お前には関係ないでしょ」
「ありますよ。僕だって七班の一員になったんです。サスケがいなきゃ七班が完全でないと言うなら、僕にだって力を尽くす義務はあります」
 ははっと先輩が笑う。
「付き合わせてごめーんね」
 おちゃらけて放たれた言葉が、やっぱり先輩は何もわかってないのだと僕をがっかりさせた。

 だから、そうじゃないんです、あなたのためでも、ましてやナルトやサクラのためでもない、やっぱり僕のためなんです。

 だってあなたは七班に穴がある限り彼に捕われたまま自分を責め続けるんでしょう。
 いい加減にその自虐趣味はやめてくれませんか。たとえ先輩だろうが、僕は先輩を苛む存在が腹立たしいので。

「だから関係なくないです」
「わかった、わかった。そんなムキにならなくても」
「先輩はわかってませんよ、多分」

 僕はただ、あなたが幸せであればいいと願うのであって、欠けたピースを取り戻すことであなたが笑ってくれるのならば、結局それが僕の幸せなんです。



(101020)
別にカカサスではない。が、サスケが帰って来ないときっと七班は幸せになれんのだろうなぁ、と。カカシが幸せになる気がないのに隊長は幸せになれんのだろうな、みたいな。
説明しなきゃいけないもの書いてすみません(説明しても伝わってないような)。



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