物より思い出より今


※四カカっぽい(テンカカ)
※ヤマもオチもないグダグダ



 先輩の家に来るのは初めてではないけれど、付き合いが長い割りに数えるほどしか入れてもらったことがないので、どうにも落ち着きがなかった。先輩が隣にいるうちはまだいいが、先輩が風呂に行くと言っていなくなり、僕一人部屋に取り残されるとそわそわして仕方がない。何度も一緒に寝ているくせに、まるでお泊りが初めての子供みたいで、みっともなくて自分でも笑えた。

 何か気を紛らわすものはないか、と部屋を見回すと、本棚が目についた。いつも手にしているのは例のいかがわしい本しか見たことがなかったけれど、真面目な本も読むらしく、小難しいタイトルがずらりと並んでいた。それを順に眺めていると、一番下に題名のないものがある。つい手を伸ばすと、それは本……ではなくて、アルバムだった。
 意外。ふうん、こういうのをきちんと残す人だったのか。確かに窓辺に写真たてが置いてはあるけれど、他にカカシ先輩が写っている写真は見たことがない。カメラを向けると逃げ回る人だから、僕と一緒に写っているのは一枚もなかった。
 勝手にいいのかな、と一瞬良心が咎めたが、好奇心には勝てなかった。
 パラ、とめくると、最初のページには女の人と赤ん坊がいた。下に『XX年9月15日』と書いてあるから、生まれた時の写真だろう。母親と思しき女性は美人で、先輩とよく似ていた。ページをめくれば、子供は徐々に大きくなっていった。
 その子は確かに先輩の面影があるけれど、あまりに可愛くて、とても同一人物とは思えず笑いが零れた。僕の知っている先輩はもうすでに大人で(大人から見ればまだ子供だったのかもしれないけれど、子供の僕から見たら十分大人だった)、一体どんな子供だったのか、話してくれることも少ないので、僕は先輩の幼少期などほとんど知らない。だから写真の中の愛くるしい子供と、今の先輩の憎たらしい言動がどうしても結びつかなくて、子供時代の先輩は想像ができなかった。

 子供の成長記録は丁寧に記されていたが、それはある時を境にぷつりと途切れた。恐らくこのアルバムは本来親が作ってくれた物なのだろう、きちんと整理されていたのは先輩が七歳の時までで、父親が亡くなった後の写真は台紙に貼られておらず、無造作につっこんであった。おかげで僕の膝の上にあったアルバムから、写真がバサバサと散らばってしまった。
「あ……」
 落ちたそれらを拾おうとして、手が止まる。そこに写っていたのは先輩というよりは四代目火影だった。先輩はオマケのように時々写っているだけだ。
 それにしても、と思う。写真の二人はよく笑っていた。いい笑顔だ。僕の見たことのある四代目はいつもきりっとした頼りがいのある顔をしていたし、先輩は無表情か仏頂面が多かったのに、写真の二人は、どこか気が抜けていたり、馬鹿みたいに笑っていて、心底幸せそうな顔ばかりだった。よほど親しい人間でなければ、こういう表情はできない。作り笑いではない、本物の笑顔。

 どくんと心臓が鳴る。さっきまでの微笑ましい気分が一気に冷めて、嫌な気持ちになった。
 四代目が先輩の心を占拠していたのは知っている。けれど、それはもう過去のことだと思っていた。火影様はとっくに亡くなった。思い続けても仕方のない人だ。もう忘れても、いい頃だ。

 でも、もしも違ったら。先輩はまだ忘れてないのだとしたら。
 
 時々そう感じることはあるけれど、四代目が僕の目の前に現れることはないから、僕の思い過ごしだということにして来た。が、こうやって、その証拠のようなものをまざまざと見せ付けられてしまうと、もう思い過ごしだなんてノーテンキなことを言っていられなくなる。

 ああ、もう。こんなもの見なきゃよかったのに。

「ちょっと!」
 後悔し始めたところに、先輩が手を出してきて、僕からアルバムを奪い取った。その角で、思いっきり頭を殴られる。
「痛っ!」
「テンゾウ」
 見上げると、不機嫌をあらわにした先輩が仁王立ちしていた。
「あ、すみません」
 つい謝罪の言葉が出てしまうのは、僕にも多少の後ろめたさがあるわけで、先輩は案の定お怒りのようだ。
「誰が見ていいって言った?」
「いえ……つい」
「ついって何よ」
 もーこんなの散らかして! と文句を言いながら、先輩はそれを丁寧に元の場所に収めていった。僕は微妙な心境でそれを見ていた。勝手に見たのは悪かったかもしれない。けれど、それ以上に先輩に聞きたいことがあった。

 先輩。
 それは、そんなに大事にしまっておくものなんでしょうか。
 あなたの心に四代目はどれくらい残っているんですか。
 今、あなたの中に僕の居場所はちゃんとあるんでしょうか。
 

 僕は結局言えなかった。言えずに黙っている。先輩も何も言わない。
 長い沈黙があった。

「ナルトにね……」
「え?」
 先に口を割ったのは先輩だった。聞いてもいないのに、言い訳めいたことを、しゃべりだす。
「いつか見せてやろうと思ってたのよ、ナルトに。ほら、アイツ、親の顔なんて知らないだろうから。見たいって言われた時に見せてやれるように、あちこち行って、写真もらって来たんだよ。俺にできるのはこれくらいだから、さ。だからこれは別に俺のためにとっておいたわけじゃなくてね」
 どこまで本心なのか、わからない。どういう意図でそう言ったのかも、よくわからない。ただ僕はそれを素直に信じることにした。先輩に他意はないのだ、と思いたかったから。
「そうですか」
「うん」
「ナルトも喜ぶんじゃないですかね」
「だといけどね」
「どうせなら先輩も写ってるのにすればいいのに」
「何でよ」
「あなた、ほとんどいないじゃないですか」
「だって俺、写真とか嫌いだもん」
「ですよね。僕と一緒なんて一枚もないですもんね」
「そりゃお前の思い出なんて残す必要ないもの」
「あっ、ひどいなぁ、僕は残す価値もないんですか?」
「ばぁか、どうせ振り返る暇もなく蓄積されていくんだから、残さなくていいんだよ」
「ん? それってどういう意味ですか」
「そういう意味だよ」

 結局僕は未だに先輩の写真を持っていないのだけれど、そう言ったら「写真と俺とどっちがいいの」と返された。





(101002)
四カカに一人でぐるぐるするテン→実はテンゾが思うほど四カカではないカカシ
というのを狙っていた(素晴らしきノーコンぶり)。
これ以上いじってもどうにもならなそうだから、未完成の没でも上げてしまう。
もっとうまく書けたらいいなぁ。


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