あのひのやくそく


「えーっ、いいじゃないですかっ!」
「良いわけないでしょ! ダメなものはダメ!」
 ぷくーと膨れて、先生は俺からその本を取り上げた。じとっと睨んでみたが、先生がダメと言ったらダメなのを俺はよく知っている。
「……クシナさんに言いつけますよ」
 ボソッと脅しめいたことを言ってみたが、先生は「いいよ」と胸を張った。やれるものならやってみな、そんな目だ。どうせ俺なんかより、クシナさんはとっくに知っているのだろう、と思ったら心臓の辺りがつきんと痛くなった。
「カカシが十八になったらプレゼントしてあげるよ」
「そんなに待てません」
「たったの四年だよ」
「四年も、っていうんです」
「ふふっ、そう思ってるのは今のうちだけで、あっという間だよ」
 先生はいたずらっ子のように笑うと、『イチャイチャパラダイス』なる怪しげな本をポーチにしまってしまった。結局、俺が見たのは表紙と、適当にめくった数ページだけ。どうして見てはいけないのか、意味はわかるけど、実際そのページを目にすることはかなわなかった。
「先生、本当に俺が十八になったら、その本くれるんですか?」
「ん! 約束だよ! そのかわり、それまで読んじゃダメだからね!」
「……わかりましたよ。約束ですからね」
「ん! 約束!」
 子供がやるみたいに差し出された先生の指に俺は自分の指を絡めた。



 あの人は嘘つきだったなぁ、と十八の誕生日に思い出して、雨が降っていたのに、俺はわざわざ本屋へ出かけた。
 いつの間にかシリーズ第二弾の『イチャイチャバイオレンス』なんてのが出ている。俺はそれら二冊を買って家に帰った。
 四年もの間、先生の言い付けを守って読まずにいたのも馬鹿みたいだが、きっちり十八の誕生日に思い出して買いに行くなんてのは、もっと馬鹿げている。
 だけど、それが先生が俺にしてくれた、たった一つの約束だったから――そんな約束をするのもどうかしてるのだけれど――どうしても守らなくちゃいけないような気がしたのだ。


 読んでみたら思っていたのと全然違った。十八禁だなんて脅すから一体どんなドエロ小説かと思っていたら、とんだ純愛ストーリーだ。それはもう涙が出るくらいに切ない話で俺は困ってしまった。







(09/27~10/20元拍手お礼分)
ギャグですよ



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