狼少年を信じられなくなった村人の末路


「ねぇ、テンゾウ、俺たちの関係って何なんだろうね」
「……はぁ?」

 何を今さら、と思った。そんなのは僕が聞きたい。先輩にとって僕は一体何なんですか、と。
 ずっとずっと聞きたくて、だけど先輩はさらりと聞きたくないことを言いそうで、一度も聞いたことがなかった。

「何言ってんですか。先輩は先輩でしょ。それで僕はただの後輩です」

 僕はそう思うことにしている。たとえ休日の度に先輩が僕の家に転がり込んでいたり、僕がしつこく先輩が好きですと言っていたり、恋人まがいのキスをされようがセックスをしていようが、とにかく僕らはただの先輩と後輩だ。時々『もしかして』と思わなくもないけれど、それは甘い考えだ。甘い夢まぼろしだ。僕の妄想だ。

 そういう風に戒めていないと後で痛い目を見る。先輩はとことん鬼なので、一瞬気を許したとたんに奈落に突き落とされるなんて経験は幾度となくあった。

「じゃぁテンゾウ、俺が付き合ってって言ったら付き合ってくれる?」
「え……?」

 ふと先輩の口元からふざけた笑みが消える。薄い色の目がやけにまっすぐ見てくるので僕はたじろいだ。そんな馬鹿な、いつもの冗談だ。と思う一方で、足元からふわふわと浮いてくるような気分だった。

「……う、うそだ」
 僕はかろうじて声を絞り出す。もう先輩には騙されない。そんなに何度も同じ手にひっかかるほど、僕は馬鹿じゃない。これはどうせ『買い物に付き合って』とか、『部屋掃除するの手伝って』とか、そういうオチだ、うん。そうだ、僕は信じないぞ。そんで買い物も掃除もご免こうむる。

「うそって何よ。俺は嘘は言わないよ」
「本当のことも言わないのが先輩です」

 僕が言われて嬉しい言葉は、必ず悪魔のような注釈がつく。
 そんな甘い言葉に誘われて、うかうかと浮かれたりするものか。

「あーらら、俺、信用ないの?」
「あるわけないでしょ」
「ひっどいなぁ」
「どっちがですか、この狼少年」


 狼少年を信じられなくなった村人は、最後どうなるんだっけ。



(100925)
うちの二人が甘々にならない原因が実はテンゾの方にあったりするとどうだろう、という話。

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