本棚を見て、毎度のことながらため息をつく。3段あるうちの一番上にはバスケ関係の本が並んでいるが、それはその段の半分を過ぎたところで違うものになっている。最も取りやすい位置にあるところだから、お気に入りの本やよく使うものが入っているのは当然で。だから今床に寝転がって唸っているこの部屋の主の頭の中を占領しているものが、必然的にそこに収まることになる。よって棚の残り約半分に敷き詰められているものは特製ノートのはずである。
今まで見て見ぬ振りをしてきたが、部室から持ち帰ってからさらに増えて俺までもが捨て置くわけにはいかない状態になっていた。とどのつまり、仕舞いきれずにいるのだ。

「どうしようかこれ。どう思う?日向」
「知らねえよ俺に訊くな」
「うーん困った。最近全然ネタが降ってこないし」
「降らんでいい」
「こう…なんつーかピンッとくるようなのがないんだよなあ」
「そんなことより片付けが先だろ、どうすんだよこんなに」
「はいはい仕方ないなー日向は」
「お前が言うな」

突っ伏している伊月の黒々とした旋毛を見ながら、こいつはこれさえ無ければかなりモテるだろうにと思う。

もう一度本棚を覗きながら伊月が背後でむくりと起きあがるのを感じる。
なんとなく大量に保存された特製ノートの中でも一番に古そうなものに手を伸ばすと、片付けろって言ったくせにと文句を言われた。

取り出したノートの表紙には1の字。
拙い文字が書かれた表紙を捲るとやはり同じような文字がぐりぐりと刻まれていた。
「あ、それ懐かしいな。初めて聞いたときは感動したんだよなー」
後ろからネタ帳を覗き込んだ伊月が嬉しそうに言う。そのページにはかの有名な布団のダジャレ。くだらなさすぎる。
「聞いたことあるようなのしか書いてねーじゃん」
「書き始めたばっかだったし。これ小学校入る前だぜ」
「早っ!そんなガキの頃から書いてんのかよ」
ここまで徹底していると驚きや呆れを通り越して感心の念が湧いてくる。そういえば家族揃ってダジャレばかり言う家庭の第2子だったと思いいたる。いかにも覚えたてといった風な読みづらい字で、アルミ缶の上にあるみかんと書いてあるページを開いたまま思わず笑ってしまった。ちっこい伊月が母親や姉に影響されて、ネタ帳のために懸命に字を覚えるのが目に浮かぶようだ。
「日向がネタ帳見て笑ってる……!やっとダジャレの極意を理解したんだな」
「いや、してねえよ!」
「残念だなー。あ、そうだ日向。突然だけどすき焼きは好き?」
「突然すぎるわ!しかも寒っ」
「今日すき焼きなんだって。食べてく?」
「お、おう」
いきなり変わった話題に少し目を瞬かせていると、伊月が俺の前まで回り込んできてダジャレを言うときの妙にシャッキリした顔で見つめてきた。なんだよダジャレなら聞かねーぞと言おうとした瞬間、ふと伊月が笑って
「すき焼きって言ってると好きって言ってる気がするよな」
なんて言うからその頭にチョップを食らわせてやった。




「日向、顔赤いよ」
「お前もだよ、ダアホ」




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120708

こっちが恥ずかしくなるくらい初な男子が好きです