大晦日の昼だった。伊月が市場に行ったらわっさり買い込んできたので、食べきれないし冷蔵庫にも入らないと文句を言うと、半分くらいはオマケしてくれたやつなんだよとか抜かすのでとりあえずど突いた。これだからイケメンは。愛想もいいし気も利くし、寒いだけで欠片も笑えないが冗談も言える。どんだけ近所の奥さん達に好かれるつもりだ。
色々バレたらどうすんだ、人に言えるような関係じゃないくせに同居してんのが悪いか、それは言わないことにしてるんだった。まあなんとかなるか、なんて楽観。そうやってきたのだ、2人して呑気なものである。

馬鹿でかい買い物袋を2人で漁りながら冷蔵庫に無理やり詰めていく。入りきらねー、じゃあそれ昼飯、しばらく買い物いらねーな、家でゆっくりしてようか、そうだな。正月の予定は二言で決まった。

その日はひたすら掃除をして、必要なものを買い足しに出掛けた。テレビ見たい、と言った伊月のために夜7時までには帰り、慌ただしく夕飯を用意した。

年が明けるまで炬燵でテレビを見て、アナウンサーの新年の挨拶につられておめでとうを言い合う。今年もよろしく、なんてはにかむ伊月に酒を少し注いでやって小さく乾杯。ぐいっと一口で杯を空けて、喉が灼けるような感覚に目をギュッと閉じた。
もう一年か、と呟く声に目を開く。昨年の正月は大変だったよなあ。クスクス笑う声が静かになってからそっと唇を合わせた。

「今年もいい一年になりそうだ」
「なりそう、じゃなくて、するんだっつの」
「あはは、日向は変わんないなあ」

それから名残惜しいながらも炬燵から離れ、厚着して外に出る。割と静かな街を、思い出話をしながらのろのろ歩いて神社に向かった。




今日も炬燵に入ってぼんやりテレビを見ていた。もう3日になってしまった。正月休み最終日の昼時。何もする気がおきなくて炬燵の天板に突っ伏した。ジャンケンで負けた伊月がベランダで洗濯物を干す背中を眺める。今日もよく晴れて、伊月の髪が光に照らされツヤツヤ輝いていた。
炬燵がある部屋の奥までは、まだ日は差してこない。薄暗い場所から見上げた天使の環に目を細める。ふわふわ、意識が揺れて、あくびをひとつ。たまたま振り返った伊月が、白い歯を見せて笑った。



「っ!?冷たっ!」
急に目が覚める。大げさに跳ねた肩に気まずいような気分で正面を見ると、伊月が肩を縮こまらせて炬燵に入ったところだった。
「あ〜、さーむーいー」
「だから靴下穿けっつったのに」
ジャンケンで負けたとき寒い寒いと文句を言った伊月に忠告したのを思い出す。すると、いや、とニヤニヤ笑って、
「日向に嫌がらせしようかと思ってさ」
それから再び冷たい足をこっちの足にくっつけてくるので避ける。
「やめろ冷たいっ!確信犯か!」
「確信犯だ!あ、公正に欠く審判は確信犯!やばいキタコレ!」
咄嗟にネタ帳を取り出そうとするのを頭にチョップを食らわせて阻止。それでもめげない伊月に言ってやる。
「長い。ウザイ。いつもよりちょっと冴えてたのがさらにムカつく」
「えっ!…え? えっ、いま」
「ウザイなお前!」
「今年はいいネタが浮かびそうだ」
「キメ顔すんなダアホ」

この午後、駄洒落が連発されたのは言うまでもない。














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120106
いつも終わらせ方に困るシリーズ第4話

いつも以上にぐっだぐだで申し訳なくなるくらいぐっだぐだでお送りしました。

今年もよろしくお願いします。