※※閲覧注意なのだよ




伊月さんの踵が肩甲骨に当たり、その重い衝撃に思わず「あだっ」と言ってしまったが伊月さんはそんなことにも注意を向けられないくらい脳味噌が蕩けているようだった。自分の体を抱くように腕を交錯させ、筋肉の上を走る青い静脈が浮き出た二の腕を自らの手で掻き毟るので真っ赤なミミズ腫れができた。その痛みでなんとか意識を保っている伊月さんの目からまた何粒目かの雫がボロボロ落ちた。

「伊月さん、」

興奮して息が荒いので吐息だけで呼びかけると、水分を吸ってキラキラ光る睫毛がぶるりと震えて持ち上がった。夜の湖のような瞳がこちらを向いて、請うように揺らめく。

「高尾」

蕾を思わせるグロテスクなまでに赤い口内がちらついて音が紡がれるのに信じられないくらい心臓が跳ねた。


手のひらが滑って太腿をうまく掴めないのは汗だけが理由ではない。ずるりと体勢を崩して前のめりになった瞬間、伊月さんの背筋がビンッと跳ねて胸が引きつった。一際強く歯を食いしばって息を止めた伊月さんは咄嗟に腕をこちらへ伸ばし、片手は引きちぎらんばかりに髪を鷲掴んで、もう一方のは肩に爪を食い込ませる。痛い。明日は絶対シャツ着れない。背中が痛すぎる。それでもこの人よりはマシだ、と思う。その伊月さんは、初めての夜には文句をつけた布団の固さに今は何も言うことなく、思い切り肘を床に叩きつけてただただ俺の名前を呼ぶだけだった。


汗がこめかみから滴って、伊月さんのしろいしろい腹に落ちる。その冷たさに顔をしかめた伊月さんは少し上体を起こし、両手で俺の頭を包んだ。汗に濡れた地肌を冷たい指先が滑っていく。何をするつもりかと顔を上げたら、伊月さんの朱い舌がこめかみを撫でていった。痺れが脳天を突き抜ける。全身から力が抜ける快感に思わず喘ぐと、そんな俺の反応に伊月さんは満足げに笑ってみせ、堪らないと言うように溜め息をついた。
右手を頭から離した彼は、指先を舐めてしょっぱいと呟き、そうかと思えば耳元に柔らかな唇を寄せる。ぼそぼそ囁かれた言葉に驚いて目を見たら早くしてとせがまれた。ゴクリ、音を立てて上下する喉仏を伊月さんは見逃さなかっただろう。

言われた通りに伊月さんから体を離して寝転がる。ずるりと引き抜くときに中が縋るように蠢くのをこの人は自覚しているのかしていないのかニヤニヤ笑っていた。魔性だ、と思う。だって俺、絶対この人から逃げられない。いつからこんなに夢中に、と首を傾げたくなるくらいだ。いつから、いや、きっと最初から。そうでもなきゃここまで溺れることなんかない。それに、他の人だっていつもこの人の仕草ひとつに目を奪われているのだ。中学からの馴染みだとかいうあの人の、彼を見つめる目と言ったらこちらが罪悪感を覚えるほどだった。
そんなことを頭の端で思い返しながら俺の腹に跨る伊月さんを見上げる。ばっちり視線がかち合ったのでとりあえず「重いっす」と声を掛けたら「我慢せい」と脇腹をつつかれた。変な声が出たので伊月さんが愉快そうに笑った。
不快にベタつくシーツに擦れて背中が痛むのは顔に出さず、代わりに伊月さんの赤く腫れた二の腕をなぞる。ぴく、と肩を揺らした伊月さんは少し眉間にシワを寄せた。それから枕元のゴムに手を伸ばして、こちらにひとつ寄越してきた。



いよいよ伊月さんが俺の臍の横に右手をついて少し腰を浮かせたとき、表情1つ見逃すまいとまじまじその顔を眺めていたらふと伊月さんが口を開いた。上からじっと見つめ返されるもんだから思わず口元が緩む。

「こういうときさ、全然探ったりしなくてもいいところが怖いよな」

「えっ?言ってる意味が……」

突然神妙に話し出した伊月さんが何を言いたいのか一瞬わからず首を傾げた。すると伊月さんが目を瞑ったまま腰を下ろし始めて、ぐ、と眉間に皺を寄せる。

「あ、ナルホド。たしかに後ろ見てないっすもんね。見なくてもわかっちゃうんですよねー」

「だろ?今気づいた。ありえないくらいスムーズじゃん」

「いや、他がどうとかは知りませんけど、でもこれ練習中思い出したりしたら最悪すぎるっ」

「ありそうだから言わないで、立てなくなったらどうしてくれんの」

「やば、それめっちゃ興奮する」

「ちょ、ばか、」

慌てて目を開いた伊月さんは熱っぽい息を吐いて恨めしそうにこちらを睨んでくる。それにニヤニヤ笑いを返してヤバい燃えてきたと言ったら腹の上に置いた手に思い切り体重をかけてきた。蛙が潰れたような、とはこんな音を言うんだろうと思わせる声が部屋に響く。

「てか、そういえばなんで今日は上がいいんすか」

「背中、痛くなってきて」

「あ、やっぱり」

そんなことを言っているうちに伊月さんの口数も少なくなっていって、すっかり腰を下ろしたときにはこちらから顔も見えないくらい俯いてしまったものだから、何もしないで寝ているだけの状況にも飽きてしまった。放り出していた右手を持ち上げる。そろそろこっちから仕掛けてもいいんじゃなかろうか。無理矢理上半身を起こしたら体のあちこちがビリビリ震えたけど気にしない。なんとか手が伊月さんの頬に届いて、そっと触れると今にも涙が零れ落ちそうな目がこちらを向いた。顔にかかった髪を払いながら顎から首筋、鎖骨を辿って腕をするすると撫でると強張っていた表情が和らぐ。その様子になんとも言えないものを感じて、思わず笑顔になる。そのまま手を下ろしていって、力の入った太腿の付け根をなぞったら面白いくらい伊月さんの体が跳ねた。パシッと手が叩かれる。驚いて顔を覗き見ると真っ赤になって逸らされた。何か言おうとしているようなので開きかけた口を閉じる。

「ちょっと、触らないで、待ってて」

そうじゃないと、おかしくなりそう。


ぼそぼそと呟かれた言葉に数秒固まって、それからドスンと背中から倒れた。痛みとかもうどうでもいい。腕で目元を覆って、あーとかうーとか唸る。口角が嫌でもつり上がって制御できない。

「いま、もしかしたら、つか絶対、真ちゃんがデレたときよりびっくりして…」

いきなり腕を引っ張られる。それと同時に飛び込んできたのは鋭く光る猛禽の目。

「その名前、今言わないで」

そう囁く声は少し拗ねているようで、どきりと心臓が鳴る。こうも露骨に嫉妬している態度を見たことがないために思考がショートしそうになる。というかもうごちゃごちゃ考えていられない。どうにか起き上がり胡座をかくように座って、逃げかけた伊月さんの背中にしっかり腕を回す。悲鳴のような抗議の声が上がる前に下を向かせて唇を噛むように奪った。

「今日ゴム足りないかも」

ついこぼしてしまった独り言はもう誰にも聞こえていなかった。













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121127


やりきった……
一度消えたのに書き直すとかもう……
後悔も反省もしていないけどね
なんで初が高尾なんだろう
なんかもうすみません

しかし分かりづらい文章である。そういう単語は打てないんだよ眉毛は……中途半端で申し訳ない
足りないところは想像で補ってくださっ…