練習試合のために遠くに行った帰り。ぞろぞろと電車に乗り込んで各々好きな席に座っていく。やたら空いている電車だったので、仲良く固まって座った。図体のデカい高校生男子が恥ずかしいとは思ったが疲弊した体は誘惑には勝てないのだ。仕方がない。向かい側の席で次々と眠りに落ちていく1年を見守っていたらカントクが筋トレメニューを再考し始めてしまった。その隣の木吉が笑いながら、リコはいつも一生懸命だなあとか的外れなことを言い始める。その脳天気な顔が真横を向いて俺を見てきたが、自分が見上げたときの首の角度にイラッときたので視線を逸らす。
俺を挟んで木吉の反対側に座る伊月は早速ネタ帳を開いて唸り、その2つ隣のコガは端に座る土田に送られてきた彼女からのメールを盗み見ては水戸部に羨ましいと喚く。コガにうるせえと一括して、木吉のボケた話に適当に返答し、カントクの鬼畜メニューについてコメントしていたらいつの間にか車内は静まり返っていた。起きている木吉とカントクと、声を潜めて会話をする。伊月の隣の水戸部が、ぐらぐら揺れながら寝ているコガを自分の肩に寄りかからせるのを見て、カントクが微笑ましいわねと言った。ついでに伊月くんも支えてあげたら?と言われて真横をみれば、伊月がネタ帳を落としかけてコックリコックリ舟を漕いでいた。数秒、その様子に癒されていたが遂にネタ帳が床に落ちたので屈んで拾ってやる。だが姿勢を戻そうとした拍子に伊月がこちら側に傾いてきて、俺は戻れなくなる。おいおい、顔潰してほしいのか。
木吉がそっと伊月の肩を押すと、伊月がもぞもぞと姿勢を変えた。はあ、と溜め息をひとつついて深く座り直す。今ので起きたか、と思って隣を見れば、伊月は目をこすって今度は水戸部に寄りかかろうとしていた。また溜め息をつく。どうせならこっちに来いよ、と思う。むっとしていたのがわかったのだろう、木吉が俺にどうしたのか訊いてきた。俺はなんでもねえと返して、伊月の肩を抱き寄せる。珍しいこともあるものね、とかカントクがからかってくるのは聞こえない振りをした。


後日、その様子をこっそり写真に収めていた黒子からメールが送られてくるのはまた別の話である。

















--------------
120827
安眠の秘訣は君の温もり。


伊月の寝顔を1日中眺めていたい