ゆっくり自転車を漕ぎながら欠伸をする部活帰り。並列運転禁止の紙が貼ってある電柱の横を日向と並んで通り過ぎる。
会話もなく、ただ静かなだけの帰り道。
いつもの角までの短い時間。
人気の少ない黄昏時に二人きり。
昼間よりは涼しくなった風がヒタヒタと体に張り付くように通り過ぎて、日向が思いっきり嫌そうな顔をする。
その隣で、オレはちょっと笑う。
夏の夕暮れのなまぬくい風が汗を冷やしていくのは嫌いじゃないから。
「なんだよ」と、日向がこっちを見たので「ナンだよ」と答える。やれやれと首を振られた。

またしばらく無言になる。
静かだった。
あんまり居心地がいいから、また欠伸をしてしまった。
そこでやっと、もうすぐ分かれ道だと気がついた。このまま帰るのがなんとなく勿体無いと思う気持ちが湧いてくる。

「ひゅーが」
なんとなく名前を呼ぶと短い返事が返ってくる。「ちょっと手貸して」「は?」「いいからいいから」
怠そうにゆっくりハンドルから離された右手を、自分の左手で掴む。
そのままそれを1メートル弱空いていた日向との間にぶらぶらさせてみた。
「おい、伊月?」
案の定、やや慌てた日向が右手をピクリと動かす。それでもそっちは見ない。前を向いたまま、ぎゅ、と左手に力を入れた。



「じゃ、また明日」
「え、ああ」
「大丈夫か?上の空だけど」
「あのな、お前……」
「ん?」
「…なんでもない」
「日向のヘタレ」
「ヘタレで悪かったな!」
「悪いとは言ってないしヘタレじゃない日向は日向じゃない」
「はぁ……」
「ははっ」
「笑うなって」
「ん。じゃ、そろそろ」
「おう、明日な」
「うん」


手を振って、ペダルに体重をかけ始める寸前。オレはまた振り返る。ぱっと目が合って、数秒見つめ合う。
たったそれだけのことなのに、さっきなんか自ら手を繋いでいたというのに、咄嗟に、猛烈に恥ずかしくて嬉しくてキュッと切なくなった。
名残惜しい、もっと一緒に二人きりでいられたら。
そんな気持ちはぐっと我慢して、ぎこちない笑みを互いに浮かべ、ペダルを思い切り回した。
きっと日向も自分も顔が赤い。夕日が真っ赤な日でよかったと、細く長く溜め息をつく。

1人になった路地で冷えた手の甲を頬にペタペタと当てながら、このちっぽけだけど宇宙一の幸せを噛みしめるのだった。



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120713





目が合うだけで幸せなプラトニックラブ
いいんじゃないか

愛とはこうあるべきとか宣ってみる
砂吐きそうですね、そうですね