▼同棲日月
04/01 03:00(0

ここ数ヶ月の間、伊月は毎日弁当の代わりにお握りを2つ作るようになった。俺もたまに手伝っていたのだが、水気が多すぎたり塩気が少なかったりといまいちな出来なので最近はほとんど作らなくなってしまった。
最初こそ具の入らないただの白飯に塩のついたお握りだったが、最近は具を入れられるようになって、毎回何が入っているのか予想するのが楽しみになった。梅干しの場合が多いが、鮭や明太子も珍しくはなく、ふりかけのときもある。鞄を開けて包みを開くときの言い様のない幸福感にいつもにやけそうになる。ラップに包まれた、綺麗な三角形のお握り。両手で包み込むと少しだけ余るくらいの大きさは、作った人の手のサイズ。すっかり冷めているはずなのに、温もりを感じられるような気がするのだ。

しかし、これほど素晴らしい握り飯であっても毎日食べ続ければありがたみも薄れてくるというものである。とどのつまり、俺は飽きたのである。たまにはジャンクフードだって食いたい。しかし毎日端正込めて作ってくれている手前、なかなか言い出せないのが現実だ。そこで俺は譲渡するという必殺技を身につけた。同僚にお握りを分けてやるのである。そして自分はハンバーガーを食べる。後ろめたさはあるが、要は伊月にバレなければいいわけだ。そんなことを数度と言わず、もう何度も繰り返していたある日。たまたまお握りを食べなかった日のことだった。夜、夕飯を済ませたあと、伊月が突然訊ねてきた。

「ねえ、今日のお握りどうだった?」

よりにもよって今日訊くかよ、と内心舌打ちする。

「え、フツーに旨かったけど」

あくまでも自然に返事をする。

「そう?じゃあさ、どっちの具の方が旨かった?」

そうきたか、ヤバイな。二度目の舌打ちをする。新聞紙から目が離せない。

「えー、どっちも旨かったけど…つーか、どうしたいきなり」

「いや、どうしたとかじゃないけどさ。ね、敢えて言うならどっちが好き?」

「こ、甲乙付けがたい」

さりげなく話を反らせないかと思ったが、どうしたことか伊月は意外にもしつこく訊ねてくる。苦し紛れな答えに内心冷や汗ダラダラである。これ以上問い詰められたら答えようがない、そしたら白状するしかない、なんて腹を括ろうとしたときだった。伊月の笑い声がリビングに響いた。

「そりゃそうだよな、どっちも久々に具なしだったから。文句言われるかなって思ったんだけど?」

恐る恐る振り向き覗いた伊月の顔は、それはもう壮絶に美しい笑顔だった。
その後弁当を二人で作るようになったのは言うまでもない。








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エイプリルフールだから嘘ネタを。
惚気る四月馬鹿な前半、誘導尋問される嘘つきさんな後半。
ちゃんと言ってくれたら考えたのにさあ…なんていじけられて、もう二度と作らないよ、と拗ねるのを宥めすかすのが大変だったと日向談。
お前のお握りめっちゃ好きだからって言っても、ハンバーガーのほうがいいの知ってるからもういいよって取り合わない。駄洒落も言ってこない。オロオロする日向を見てひとしきり楽しんだら、これからは一緒に二人分弁当作ろっか、って笑ってくれる伊月さんまじ良妻。伊月さんが詰めた綺麗な弁当は日向が、お世辞にも綺麗とは言えない弁当は伊月が持っていきます。大変長くなりました、ではでは失礼。よいエイプリルフールを!嘘はついてもほどほどに☆

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