▼森月
03/16 16:32(0

ガチャリと扉が開いて、店内のオレンジ色の光が薄暗くなりつつある路地裏を照らした。一瞬立ち止まった彼に手を振ると、きらきらと綺麗な黒髪が光った。逆光で細かな表情は見えない。そこからパッと飛び出してきた彼は、一瞬彼だとは思えないくらい美しく、それは、そう、彼ではなく彼女と呼べるほどで、真っ白な肌によく映える黒いドレスは大胆すぎるほど短く、露出が多い。惜し気もなく晒された腿が描く曲線や、胸元から肩口まで辿れる鎖骨のラインに思わず息を呑んだ、その一瞬。細い腕が力強く首に回され、グッと下に引き寄せられた。その拍子に素足のまま限界まで背伸びをしている足元が視界に映る。それも一瞬のことで、次の瞬間には彼の白い体がこれ以上ないくらい強く俺の体を抱きすくめていた。突然の衝撃によろけそうになるのを全身の筋肉で堪えて、それから、彼が勢いあまって吹っ飛びそうなのを抑え込むように彼の背に腕を巻きつかせた。腕には浮き出た背骨、掌には薄い皮と肋の感触。こんなに力強く抱きしめたら折れてしまいそう、なんて笑みを浮かべる間に熱い息が唇に当たった。絡まる視線をそのままに、何度も柔らかな唇に口づけた。ゆっくりと瞼が下ろされていくのを合図に下唇を舐めると、歯と歯の間から真っ赤な舌が躊躇うようにこちらの舌先に触れてきた。
両の胸でどくりどくりと心臓が脈打っている。こぼれ落ちるような吐息、時折混じる喘ぎに否応なしに気分が高まっていく。唾を呑み込む暇もなく深く口づければ後ろ襟を強く掴まれた。上顎をゆっくりと撫でると、がくりと彼の背が縮まる。そのまま唾液を流し込むように舌を絡ませるうちに彼の背中がしなっていった。
逃げようとする伊月の腰に腕を回して強く引き寄せる。徐々に力が抜けていっているらしい膝に、首に回された腕があらん限りの力でしがみついてきた。もう伊月は半分俺にぶら下がっているようなものだ。それならと、抱き上げるために腰にあった手を下げていったら、途端に我に返ったように顔を反らして荒い息をしながら『まだ、待って』なんて涙目がこちらを見上げるので堪らなくなる。抱っこしてあげようかと思っただけなのに?なんて意地悪く笑いかければ忽ち首筋までもが花色に染まるのが只ひたすらに愛しい。馬鹿、罵声が小さく発せられた濡れた唇にリップ音を響かせ、視線を再び絡ませる。そっと肩に額を寄せられて、花を抱くようにその細い体を包み込んだ。チリリ、二人の間にはロザリオが光っていることを、今だけは忘れて微笑み合うのだった。








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深く考えてはいけない。
なんかすごく煉瓦敷きの街並みを想像しています。街灯がちらほら。場末のバーから完璧な女装をした伊月さんが顔を出して、森山さんを見留める。走りにくいヒールは手に持って、翔ぶように駆け降りてくる。目一杯の背伸び。抱き留める森山さん。彼はキリシタン。それでも綺麗な黒髪の彼に恋をした。彼は神父のために美しく着飾って街に出る。そうでなきゃ何処へも行けない。いつかは手に手を取り合って……ごめんなさい黙る黙るよ眉毛は

ふざけてはいないのである。熱烈なキスを路上でするシーンを書きたかっただけです。お粗末!

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