▼黒子と青峰
01/27 04:10(0


「こう、両手で水を掬ったとしたら」

ボールを間に挟んで座り込んだ黒子が、両手で器を形作って呟いた。オレは空を見上げていた。馬鹿みたいに青い空を、馬鹿みたいに口開けて。

「指の隙間からポタポタ、水が流れていくみたいに」

静かに話を続ける黒子を見やると、黒子は凝視っと手のひらを見ていた。一瞬、そこに水が張ってあるのかと見紛うほどに真剣な眼差し。鳩尾の辺りに穴が開いたような感覚。すうすうとして、落ち着かない。だから、聞きたくねえ、素直に言ってやった。くす、黒子が小さく笑った。

「ねえ、僕は寂しいんです。どんどん薄れていくのが。確かに手のひらは濡れているのに、そこに水は残ってないんですよ。いつか乾いてしまったら、そう思うとやりきれないんです。そういうものなのに、やっぱり悲しい」

隣に転がっていたボールを黒子は抱き上げるように持ち上げた。そっと撫でて、ポンと膝の上に乗せる。

「今、すごく楽しいんです。でも、青峰くんやみんなと過ごした時間だって、やっぱり楽しかった。それとこれは、比べられるものじゃないんですよ。青峰くん、時が経つのが早すぎて、僕は……ふふ、僕って結構欲張りなんですね」

黒子は他人事のように締めくくって、ボールをこっちに転がしてきた。それを掴むと、手のひらに馴染んだその感触に息が苦しくなったような気がした。深く呼吸をする。靄がかかったような記憶を掘り返し掘り返し、毎日が輝いていたころを思い出す。随分遠い過去のような、そうではないような。でもやっぱり、その記憶はもやもやしている。あとはもう、流れ落ちていくのを眺めるだけなのか。ぼんやり考えてみる。ザラ、手のひらでボールを撫でた。

黒子は座ったまま、両手を上げて伸びをした。それは、清々しいほどの青空によく映える姿だった。

放ったボールは、綺麗な弧を描いて、ストンと落ちた。

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