▼すんげえ中途半端な黄月
12/19 00:18(0



寒さで目が覚めて、まだまだ眠い頭を起こせば閉め切られていなかったカーテンの隙間から微かな光が差し込んでいるのが見えた。ぼやける視界を擦りながら薄暗い部屋を見渡し、壁に掛かった時計が朝6時半過ぎを指しているのを確認。せっかくの休みなのに早く起きてしまったようだ。隣を見ると、布団を余分に巻き取って熟睡する伊月さんがいる。昨日寝たときよりこちらに近づいてきているので、きっと今日も外は恐ろしく寒いんだろう。

なるべくベッドを動かさないようにカーテンへ手を伸ばし、眩しいだけで部屋をちっとも暖めてはくれない冬の朝日を遮ってやる。少し枕が揺れたようで、一晩中乱れのなかった寝息が一瞬だけ不満げに大きくなった。それでも彼は全く起きる気配もなく、あどけない寝顔をこちらに向けて自分の隣で安らかに眠っている。その寝顔に思わず微笑んで、それから大あくびをひとつ。どうやら眠気が移ったようだ。それなら眠気に逆らわないで二度寝してしまおうと決めて、ずれてしまっていた布団をそっと引っ張り再び温もりの中に潜り込んだ。







目が覚めたら視界いっぱい黄色だった。
随分近いな、と思いつつ体を反転させて時計を見る。もうすぐ9時半だ。黄瀬のほうに向き直って、布団の中から右手を引き抜く。その手で目の前の顔をペチペチと叩いて名前を呼んでみる。寝起きだからか、全然声が出なかった。咳払いをしてもう一度声をかける。

「黄瀬、もう9時半」

全然反応がないので、頬を引っ張ってみた。眉間に皺を寄せられただけだった。面白くなって、鼻を摘んだり瞼を無理やり開いたり(白目剥いてた)、顔をムニムニと弄っていたら黄瀬は呻き声を上げた。それでも寝返りを打たない根性に感心しながらも、さらにモデルの変顔を楽しむ。ちょっと開いた口が何とも間抜けな感じだ。
しばらくそうしていたけれど起きる気配が無いので、それなら寝かしておいてやることにして自分は布団から出ようと決めた。ぐるっと体を反転して黄瀬に背を向け、それからちょっと足を外に出す。

「さむっ」

思わず引っ込める。
布団の中が暖かいから忘れていたが、そういえば部屋の暖房は切って寝ているのだ。出たら寒いに決まっている。
一度引っ込めた足に既に布団から出る気を削がれた俺は、再び黄瀬へ向き直った、と同時にパチリと目があった。そのきんいろの目が一瞬ゆらゆら揺れたと思ったら堪えられないというようにヘニャリと笑みを形作った。

「あ、黄瀬。おは…」

「伊月さああん」

おはようと言いかけた声を、大型犬のような年下の恋人はガバッと広げた腕で遮った。ぎゅっと引き寄せられて、黄瀬の匂いいっぱいに包まれる。

「ちょ、ちょっなに、どうしたんだよ」

いきなりのことに驚いて、ついでに苦しいと声をあげると一言謝る声が頭のすぐ横で響いた。スッと体が離れて、代わりに顔が目の前に迫ってくる。ちょっと背をそらしたら更に寄せてきて、ついに額同士をくっつけられた。じっと見つめてくるきんいろに焦点を合わせられなくて下を見る。

「8時くらいに起こしたの、覚えてないッスか」

「え、8時?」

「もう8時ッスーって」

「さあ…」

「まじで覚えてないんスね?」

「え、うん、まあ」

なぜそんなことを訊くのかわからず戸惑いながらも返事をすると、黄瀬があああとかうーとか唸りながら肩に顔を埋めてきた。
なんとか腕を伸ばして、手のひらで頭を撫でてやるとクスクスと嬉しそうに笑った。

「伊月さん超可愛いッス。でも、寝ぼけてる伊月さん絶対合宿とかで目撃されてるッスよね、羨ましいってか嫉妬しそうッス。ああもう人前で寝ないでほしい」

「な、なに?俺何かした?」

「んー、それはちょっと、秘密っていうか」

「なんで」

「俺だけが知ってる伊月さん、てことでいいじゃないッスか」

そう言ってまた目を細めるのできれいに生え揃った長い睫がチラチラと近すぎる距離で揺れた。
いつのまにかビリビリと耳朶が熱くなってきて、

「黄瀬、それ結構恥ずかしいよ」

ぼそぼそと言って、頭まですっぽり布団を被る。そのまま黄瀬にかかっている分まで奪い取って、掛け布団丸々一枚を独り占めしてしまう。

「わ、ちょっと伊月さん!さむっ!寒いッス!」

黄瀬が隣でジタバタするのがわかったけれど無視してやる。布団の中にいると顔だけじゃなく体中が暑くなってくるが今出るわけにはいかない。
なんだってあんな独占欲をそれと自覚することなくひけらかすことが出来るんだろう。
今さらそれが嬉しいだなんて思ってしまった自分が更に恥ずかしい。
カッカッと頬が熱を放出している。
ぎゅっと目を閉じたら黄瀬が急に静かになった。どうやら立ち上がったようだ。軽い掛け声とともに簀巻き状態の俺を越えベッドから飛び降りていく様子を窺っていたら突然黄瀬が大声を上げた。カーテンが勢いよく開く音が響いた。

「おお!やっぱり雪積もったんスね!」

「え、雪?」

黄瀬の声に布団から少しだけ顔を出すと、窓の向こうから射す光で視界が一瞬チカチカした。

「降るって言ってたじゃないッスか、昨日」

「あー、そうだっけ」
















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これで終わりです、よ……。

これまた3ヶ月放置していたもの
面倒くさくなっ……たわけではないんだッ!!
海常続きだね。うふ←

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