▼黒月
11/22 20:59(0

放課後、この前読んだ本の内容がいまいち思い出せなくて図書館に足を運んだ。もやもやと頭の中に雲を作る存在はさて、どれだったろう。受け付けの先生に頼んで履歴を見せてもらってもピンとこない。こんなもの読んだだろうか。本を手にして、ひとり首を捻る。パラパラ捲ると幸福追求だとかよく生きるだとか、見覚えのある言葉が出てくるが本の中身は思いだせない。一体なぜだろうかと思っていたらふと思い浮かんだその顔に納得する。大好きなあの人の、きらきら光る綺麗な表情。それを見て、難しい哲学書10冊読むより幸せになる方法はずっと簡単だと思ったおかげで本を閉じてしまったのだ。思わず微笑んだけれど誰も本棚の間に埋もれる僕になど気がつくわけがないから平気だ。日に焼けた本の表紙を改めて眺め、食わず嫌いはよくない、そんな彼の言葉を思い出して一度閉じてしまった本を抱え直す。と、クスクス笑う声がしてハッと振り返ると「ニヤニヤしてた?」なんて言われてしまった。不覚だ、気がつかなかったなんて。でも、そういえばいつも先に見つけてくれるのは彼ばかりだったと気がつく。急に照れくさくなって曖昧な返事をしたら、また笑われた。大好きな人の笑顔一つに切ないほど嬉しくなる、そんな夕方のひととき。

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