▼失恋黄瀬
10/29 01:43(0


ああこれが失恋かあ

なんてぼんやりと頭の後ろ、遠くのほうから声がするようで、へらへらと笑顔を浮かべてみたけれど頬が引きつってうまくいかなかった。

考えてみればまあ自分に脈なんかあるわけないから当然、そうやって納得できれば今自分はこんなに心臓をバクバク動かしたりなんかしてないはずである。

話しかけようともしなかったくせに仲良くなれたらいいとか考えていた自分が今さら恥ずかしくなってきて駆け出した。気がついたら駅にいて、テキトウな金額をジャラジャラと券売機に突っ込み切符をひったくる。飛び乗った電車は特急だった。扉が閉まってから我に返って、人目も気にせず盛大にため息をついた。息を出し切るまえに喉が震えて目頭が熱くなったのでグッと唾を呑み込む。いくらなんでも涙はダメだ。自分は立っているだけでも目立つという自覚はあるのだ。
気休めに音楽でも聴こうとイヤホンを耳に突っ込む。なんでもいいから再生してしまおうと再生ボタンを押したのは間違いだった。最近流行っているらしい曲は、多くの学生が共感したとか涙したとかそっと寄り添うような歌詞と声だとか言われているけれど、ただただ神経を逆なでるだけで、未だ吹き出る汗やら激しい鼓動やらを鎮めてくれなどしなかった。ガチガチと早送りのボタンを押していたら知らない曲が突然流れ出してハッとする。ベースやドラムがガンガン鳴って、聞き取れないほどの早口な歌詞が体中を震わせる。知らない駅が猛スピードで過ぎて行くのが妙に鮮明に映った。パッと視界が開けて真っ赤な空が広がった瞬間、電車の揺れも鼓動もドラムもベースも全部消え去って、自分の息とボーカルの曖昧な発音の叫びだけがぽつんとそこへ浮かんだ。徐々に消えていくビブラートが他のものを引っ張り上げてきたときにはボタボタと雫が頬を伝っていた。

ふらふらとホームへ立ったとき目の前にいた女の子がめちゃくちゃびっくりしてたけど、取り繕うのも馬鹿馬鹿しくて鼻水を啜った。
目に入る黒々とした頭を見ては、あの人に勝る美しい色はどこにも見つからないのだと思ってしまうのがどうしようもなく苦しかった。















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むしゃくしゃしてやった
後悔はしていない
ごめんね黄瀬くん
誰が好きだったのだろうね、うん
眉毛は何も考えてません

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