▼暁 09/24 23:28(0) 将棋盤を挟んだ向こう側で、赤司が目を細める。自分の陣を俯瞰して今回の作戦でどこまでいけるか想像してみるが、勝利の像は全く浮かび上がらない。 「俊は銀を使うのが好きだね」 「ん、やっぱりわかる?」 「派手さの無い攻めは俊らしくて好きだよ。でもそれじゃ僕には勝てない」 「お前に勝つ気なんかないよ、最初から」 「そういう割には未だ僕の手には落ちてくれない」 と金を奪った瞬間、飛車が盤の上から消える。やれやれと肩を竦めたら、そろそろ終わりだねと告げられた。いつの間にか桂馬がこちらを睨んでいる。またいつものように、全体を観察する余裕もなく追い込まれていた事実を突き付けられる。軽くため息をついて、惰性で銀を敵陣へ単独先攻させた。俊、それはいけない。なんて笑われた。 「ちょっとくらい手加減してくれてもいいのに」 「そんなことをしたら許してくれないだろう?」 「それもそうだな」 たいして戦略も練らずにパチパチと軽く打ち合って、あっという間の終局。玉が見事に囲まれて一歩しか動けない。苦笑いを浮かべて最期の一手を打とうと伸ばした右手はしかし駒に届くことはなく。対面する彼の圧力に、思わずのけぞった。はっしと掴まれた右手首が動かせない。こめかみを伝う冷や汗を、ガラガラと崩れ落ちていく捕虜たちが睨んでいた。 「本当に、あなたの瞳だけは思い通りにならない」 ぎらりと光る二つの色に視界が支配される。 こうして、今日も無為な攻防は終わりを告げるのだ。 << >> |