12 無視



「…よしっ、かなり頑丈にしたからもう勝手にセキュリティを外されないよね!」


その千尋くんの声に私は現実に引き戻された。
あれからもう2時間も立っていた。
私のために2時間も頑張ってくれてただなんて…


「わざわざ私のためにありがとうね」
「そんな事ないよっ、僕がやれる事だけミョウジちゃんにしてあげたいと思っただけだから、それにセキュリティを勝手に外されちゃったらプログラマーとしてのプライドが許せないもんね」


千尋くんは両手をグーにして自身の胸前に置いて「僕も頑張らないとっ」と言っていた。


「ちょうど私も一段落したところだし休憩しようか」
「まだ2時間しか経ってないよ?僕はまだまだ大丈夫だよ」

「千尋くんが大丈夫でも私は大丈夫じゃないよ…」
「あ、そうだった!ミョウジちゃんは途中途中に休憩居れないと集中出来ないもんね」
「う、うん…」


千尋くんは無意識に言っているようだが結構心にはグサリときた。
まあ、悪気はないしね。


「私は紅茶いれるね」

「じゃあ僕はお菓子持ってくるよ、…あ!お菓子が無い!ここに来る前に教室寄ったから教室に忘れてきちゃったのかなぁ…ぼく、お菓子取りに行ってくるよ!」
「わざわざお菓子を用意してくれてたんだ…」

「う、うん!今日は入間ちゃんも来るっていったしね、人が多い時は皆でお茶会もしたいもんね」
「お菓子取りに行く時に大和田とか石丸とか会ったら会話しててもいいからね、最近会ってないんでしょ?」

「えっ、なんで知ってるの?!」
「苗木とかから聞いたよ、最近千尋くんが教室に全然顔を出さないって心配してたよ?」
「そ、そっかぁ…皆僕の事心配してくれてるんだぁ…」
「顔合わせとして行ってらっしゃい」
「うん!行ってくるね!」


そう言うと千尋くんはダッシュで部屋から出ていった。
私もお菓子用意しないとなぁ…

今の時間は授業中だけど
千尋くんが皆と話すと多分皆は次に始まる授業を無視して話すだろうし…

小1時間はかかるだろう
その間に花村に簡単に出来るお菓子作ってもらおうかなぁ…
いや、花村より東条さんのほうがいいな
うん、なんとなく。

私は東条さんにお菓子を作ってもらおうと思って食堂に向かった。


「あれ?日向、こんな時間に一人でどうしたの?」


歩いていると日向を見かけた。
今の時間は授業中のはずだ。
授業中にも関わらず一人でいるのは珍しいものだ。


「あ、ミョウジか…ちょっとさっき学園長に呼ばれてな」
「なんか悪い事でもしたの?」
「ちがうぞ」
「いてっ、」


日向にデコピンされて私は自身のおでこをなでた。


「何かあったの?」
「別に大したことじゃない」
「ふーん、教えてくれないんだ」
「あとで教えてやるよ」
「これは教えてくれないパターンだ…」

「おいおい、そんなに俺の事が信用出来ないのかよ…」
「だっていつもそうじゃん」


日向は急に私の頭をポンポンと撫でた。
急な事に私は固まる。


「え、えっと…日向どうしたの?」
「うーん…なんとなく」
「何それ…」


その後、何故か沈黙が続いた
何故か変な空気になってしまう


「本当に何それだよ!!!」
「王馬くんうるさいよ、静かにしろって言ったじゃないか」


いきなりの大声に驚いて声が聞こえた方に顔をやった。
見てみると、王馬を何故かおんぶしている最原と、何故か最原におんぶさせている王馬がいた。

どっちも体育着だ。
きっと授業が体育で王馬がおんぶされているという事はおそらく王馬が怪我したのだろう。


「どう考えてもおかしいでしょ!!勝手に良い空気になってんじゃねぇよ!なんでミョウジちゃんは日向ちゃんには優しいんだよ!!俺と態度がちがう!!」
「それは日頃の行いだよ、それにうるさいよ何回言えば済むんだよ…」

「それは最原の言う通り」


そう言うと最原は王馬を下ろした。


「二人とも冷たいのは置いといて、なんで日向ちゃんは授業サボったんだよ!そのお陰で最原ちゃんが怪我しちゃっただろ!!」

「授業サボった訳じゃないんだけどな…って、俺のせいかよ!」
「え、怪我したの最原?」
「うん、転んじゃってね」


最原の膝を見ると痛々しい傷が残っていた。
王馬は日向に文句を言っている。


「なんで王馬がおんぶされてたの?」

「僕が怪我して王馬くんが"最原ちゃんは俺が保健室まで連れてってあげるよ"とか言ったんだけど、そう言った瞬間に僕におんぶしろってうるさくて…
ちょっとは王馬くんの好感度が上がりそうだったのにそのお陰で凄く下がったよ」

「王馬は最低だね」
「俺が最低…?浮気者のミョウジちゃんには言われたくないよ…」


王馬はうるうると上目遣いで私にそう言った。


「え、ミョウジさんって王馬くんと付き合ってたの?」
「ほ、本当か?」


日向と最原が騙され始めた。


「本当だよ!俺たちラブラブなカップルだもんねー!」
「あ、嘘だ」
「なんだ、嘘か…」


騙された…と、思いきや二人はその状況から覚めた。
二人は王馬を扱いなれているのかもしれない。


「というかあの空気を見せつけられて最原ちゃんは嫉妬しなかったの?少なくとも俺は嫉妬したんだけど、ミョウジちゃんに対する愛が足りないね」

「足りないって…そもそも嫉妬って…なんだろ?」
「まだ恋すら知らない小学生かよ!」
「小学生は恋くらいは知ってると思うぞ」

「…取り敢えず最原、一緒に保健室行こう血が止まってないみたいだし」
「うん、ありがとう」
「最原ちゃんまでミョウジちゃんとイチャイチャする気だろ!保健室で!!」


最原は王馬がめんどくさくなったのか無視し始めたので、私も無視することにした。


「日向、私たち保健室行ってくるね」
「ああ、」
「俺には言わないんだ、へーそんな態度取っちゃうんだ、後でどうなっても知らねー」


私は王馬を無視して最原と保健室へ向かった。
後ほど王馬を無視した事が後悔する事になるんだけど。

最原と保健室に行くけど時間は千尋くんが戻ってくるまでまだはあるから大丈夫だろう。



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