9 殴れと



「おい雌豚!オレ様を殴れ!」
「嫌だってば!」


どいうことだか何故か私は入間に殴れと言われている。


「いきなりなんでそうなるの!」
「良いから殴れ!」
「入間、近い、近いから!」


入間はへたりこんで立てない私の事を壁まで追い込んだ。
とにかく入間の顔が近い。
思わず自分の鼓動が早くなる。
何故こうなってしまっているのだろうか。


振り返れば私達は作業部屋に足早に向かっていて、作業部屋について部屋に入った瞬間に入間に「オレ様を殴れ!」と、命令されたんだった。

振り返ってみてもいきなり入間が殴れと強請ってきた意味が分からない。
私、なんかしたっけ?


「入間、落ち着いて!」
「お前こそ落ち着いてねーだろ!このアホ豚!」
「アホ豚…」


アホ豚と言われて少しショックを受ける。
雌豚からアホ豚に階級が上がったみたいだ。
下がったのかもしれないけど。

どっちにしろ私は豚なのは変わらないみたいだ。


「何でも良いから早くしろよぉ!」
「わっ!」


ついには入間に押し倒されてしまった。


「オレ様は最低なヤツなんだぞ?!さっさと殴れ!」
「…入間、泣いてるの?」
「なわけねーだろ!」


入間は目端に溜まった涙を乱暴に拭った。


「いいから殴れ!」
「入間、本当に何があったの?」
「なんもねぇよ!ただオレ様はお前に殴られたいだけなんだよ!」
「そんな事いわれても…」


入間に何があったのか知りたいし、それになにも知らないのに友達を殴りたくない。


「あぁ!もう!さっさとしろよモブ豚!」
「ついにはモブ…か」


モブ豚と言われてまた少しショックをうける


「早くしねーと襲っちまうからな!」
「なにそれ?!」


入間は私の腕をどこかから取り出したコードで縛った。
こんな状態じゃ殴る事も出来ない。


「オレ様のハジメテは心に決めたヤツにしようとしてたけど…モブ豚がこんな状態だからしょうがないみたいだな、なあ…一緒にヨくなろうよぉ…」

「いやいやハジメテは心に決めた人にしようよ!それに私は女だよ!」

「うるせぇ!豚!一人でブヒブヒ鳴いてろ!」
「最後には豚…」


これにもショックを受けるが今の状況をどうやって抜け出せばいいのか…

そう思ったときにドアから音が聞こえた。
どうやら誰かが入ってきたみたいだ。


「ご、ごめん!お邪魔しちゃった!」
「へぇーなんか面白そうな事してんじゃん」


その声を聞くかぎりおそらく千尋くんと王馬が入ってきたのだと察する。
…なぜ王馬まで入っているの?

まあ、そんな事はどうでもいい。
救世主が来たのは変わりない。


「げっ、王馬!」


入間は王馬を見ると表情を強ばらせた。
本当にこの部屋入ってきたのは王馬とおそらく千尋くんで合っているみたいだ。


「お、王馬くん…なんでいつの間にこの部屋入ってきているのかは分からないけど、なんか二人の邪魔しちゃったみたいだからここから出ようよぉ…」

「え〜せっかくイイもん見れんのに勿体ないじゃんかー」
「だ、駄目だよぉ!」
「あ、ミョウジちゃん達はそのまま続けてていいよ」


続けてていいよって…助けてくれないのか…
入間は王馬を毛嫌いしているみたいで睨んでいる。


「チッ、王馬が来たせいでヤる気失せた」
「え〜結局ヤらないんだ、つまんねーの」


私はホッとしてため息を小さくこぼした。


「ミョウジ、ちょっと便所行ってくるわ」
「行く前にこれ外してよ、えっ、外さないの?ちょっと入間!」


入間は私を無視して作業部屋から出ていった。
トイレなら作業部屋のをつかえばいいのに…


「千尋くん…だよね?」
「う、うん」
「悪いけどこれ外してもらってもいいかな?自分一人じゃどうしても外せられなくて…」
「いいよぉ」


すると千尋くんは私の元へ駆け寄ってきた。


「そこは俺に任せるでしょミョウジちゃん!なんで不二咲ちゃんなんかに任せるんだよ!」
「王馬だと身の危険を感じるからに決まってんじゃん」

「酷いよミョウジちゃんっ…俺がそんな最低な事するとでも思っていたんだ…ウエァァァァウワアァァァン!!!ひどいよぉぉぉぉぉォォ!!!…よしっ、泣いたらスッキリしたー。」
「…」


本当に王馬はいろんな意味で凄い人だと思う。


「あれっ?ほどけないよぉ…ちょっとまっててね」


思ったよりも頑丈に結ばれていたのか千尋くんは手こずっている。
まあ、千尋くんは華奢で可愛いから当然だと思うけど…
これを本人に言ったら不味いことになると思う。


「うーん…」
「…」


千尋くんは無意識のようなのだが顔が近い。
私が思わずドキドキしてしまう。


「もー不二咲ちゃん、そんなんじゃダメだよー。それに顔が近いからミョウジちゃんが不二咲ちゃんに鼻の下伸ばしてるよ」
「え?わ、わぁ!ご、ごめんね!」


王馬が千尋くんにそう言うと、千尋くんは気づいたみたいで顔を真っ赤にして私から離れた。
それと、私は鼻の下を伸ばしていない



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