Hit plan | ナノ

マトリョーシカ

レナ様リクエスト「Truth」
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「あ、イゾウさん。出る前に…」
「どうした?」

怪訝な顔のイゾウさんを真っ直ぐ見上げ、少しだけ改まって小さく息を吸った。
伝わる様にと、心を込める。

「私をモビーに置いてくれた事、こうやって一緒に居てくれる事…他にも沢山あるけど、本当にありがとう」
「カナ…」

それっきり黙って、煙管をポンポンと弄びながら複雑な表情をするイゾウさんに、少しの不安が過る。

「私…何か変な事……?」
「いや、俺は海賊だからな…感謝なんてされ慣れてねェんだよ」

そう言ってくしゃり、と私の頭を撫でたイゾウさんは、照れてるのか目線を逸らしたままで…ちょっと可愛い、と心の中で笑う私の手を徐に取ると、先に立って歩き出した。


人目を気にして離そうとした指先を一瞬きゅっと握り返されて、伝わるイゾウさんの気持ちにトクンと心が暖かくなった。



「―なんだ、また今日も宴か?」

甲板が近づくにつれ次第に大きくなる賑やかな声に、宴の準備を買って出てくれたサッチも順調だと分かり、自然と足取りは軽くなる。


「お、イゾウーカナ!」
「お帰りなさーい」

気の早い家族が飲み始めている甲板には既にオヤジさんも出ていて、その足元に丁度戻ったらしいエースとラクヨウさんを見つけ、駆け寄った。

「オヤジさん、さっきはありがとう。ごめんね、二人とも」
「気にすんなって。イゾウに会ったらぜってー喋っちまうしな」
「俺も隠し通せる自信ねぇや」

急な隊務の変更も、あっさりイゾウさんにバラしてしまいそうな二人をモビーから出す為だった。マルコさんの徹底した根回しには、本当に脱帽する。
…凄く楽しそうに計画してたけどね。

「それにカナ、見ろよこれ!海獣の肉だぜ!」
「でっか…エースが倒したの??」
「おう、朝飯前だこのくらい。サッチに焼いて貰うから、カナも食えよな!」

笑顔で駆け出すエースの張りのある背中を見送っていた私の背後から、溜め息混じりなイゾウさんの声が降って来た。

「朝からの出来事は、全部この為か?」
「…です」
「マルコの発案だろうが…オヤジまで巻き込みやがって…」

うわ、もしかして怒って…

「まァ…自分の女が皆に好かれてんのは、悪い気しねェけどな」
「…へ?」

何やら爆弾を投下して独り笑い出したイゾウさんに一瞬呆気にとられていたら、次の瞬間とんでもない事が私に降りかかった。

「…!?」

グイッと腕を引かれ、目の前に迫るイゾウさんの顔。

「は?」
「ぶはっ」

おかげで目を瞑る間も無く…間抜けにも目を開けたまま、いきなり深く口付けられる。

ほんの数秒の筈なのに、何十秒にも感じてしまった。
態とらしくゆっくり離されたイゾウさんの口唇の色っぽさに、思わず見惚れ…てる場合じゃない…!

「あ…イゾ…さっ!?な、な…」

オヤジさんの、みんなの目の前で…!!

「グララララ!!めでてぇじゃねぇか!!息子ども!乾杯だァ!!!」

め、めでたいとか乾杯とか…オヤジさん!!呑気に飲む前に、このしたり顔の息子さんにガツンと一発言ってやってようぅ…


涙目でへなへなと崩れ落ちる私の手を取り「今回は負けといてやるよ」と、チロリと口唇を舐めながら言うイゾウさんに、私は一生勝てないと確信した…






嵐の様な宴が終わり、ほろ酔いで少し浮かれて歩く私の手はいつの間にかイゾウさんに引かれていた。

甲板であんな事をされたお陰か、特に誰も気に留める風でもないので気楽に歩く。


イゾウさんの部屋に戻りぽすんとベッドに腰を下ろすと、朝からの緊張とアルコールが急に混ざり合って、じわじわと心地良い疲労感に包まれた。

「どうした?また顔が緩んでるぞ?」
「ん、楽しかったなぁって…」

周りを沢山巻き込んじゃったけど、いろんな顔のイゾウさんが見られたし本当に楽しかった。

「カナ」

ぽふっとベッドに顔を埋めて浸っていたら、くしゃりと頭を撫でられたのでゆっくりと上体を起こす。

「はい?」
「あまり心配させるなよ??」
「…心配?」
「カナの居所が分からねェってのは、思ってた以上に心臓に悪ィ」

予想だにしなかったイゾウさんの素直な告白に、バクバクと心臓が騒ぎ出し、全身の熱が顔に集まる。

「ごめんなさい。でもなんか…嬉しい」

お詫びとお礼の気持ちを込めて、ぎゅっと全力で抱きしめる。

長い一日を、そろそろお終いにしよう。

「…イゾウさん、最後にもう一つだけ」
「まだ有るのか…?」

呆れ混じりの怪訝な顔をしたイゾウさんの目を真っ直ぐ見て、ゆっくりはっきりと告げる。


「16番隊でお世話になる事になりました。宜しくお願いしますね、イゾウ"隊長"」


それは、マルコさんが用意してくれたプレゼント。
そして"その言葉"をスッと言えた事が、私の中でこっちの世界の比重が増えた証で嬉しくなる。



16番隊員になれる事
モビーに居られる事
沢山の家族が居る事

全ての中心に居るのは、イゾウさん
こんな幸せな事、私は他に知らない


そっと抱き返してくれるその腕が
頬を埋めた胸から聞こえる鼓動が


「カナ」
「はい?」

名前を呼んでくれる、その声が

私をどこまでも導く――


fin.
リクエスト内容:イゾウさんにサプライズのお礼をしたいヒロインと隊長たち(子細は省略


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