マトリョーシカ
レナ様 リクエスト「Truth」
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「イゾウ、カナ知らねぇかよい?」
「何で俺に聞く?」
「お前以外誰に聞くんだよい」
ピシッと音を立て、二人の間に得も言われぬ空気が流れる。
「…居ねェのか?」
「さぁ、おれもまだあちこち探した訳じゃないからねい」
「見かけたら伝えとくよ」
「あぁ、頼んだよい」
その日は朝からモビーが少しおかしかった。
何の問題も起きていない筈なのに、何かが少しずれている様な、変な違和感をイゾウは感じていた。
当初は15.16番隊で出る予定だった船外隊務が急遽2.7番隊に変更になった為に惰眠を貪っていたが、いつも起こしに来るカナが今日は来なかった。マルコに何か用事でも頼まれていたんだろうと思っていたら、カナが見つからないとそのマルコが言う。
それとなく覇気で気配を探るも全く居所は掴めず、平静を装いつつ心当たりを辿るイゾウの心に、一抹の不安が過る。
「どうしたのさイゾウ、辛気臭い顔して」
「あァ、ハルタ…カナ知らねェか?」
「さぁ?そういえば今日は朝から見て無いね。ナースのとこじゃないの?」
特に関心を見せる風もなくハルタに言われ、小さな舌打を残してイゾウはナース室の方へと踵を返す。
その後姿を軽く見やったハルタは、込み上げる笑いを抑えながら足早に船長室へと向かって行った。
* * *
事の発端は数日前、朝の食堂で私が何気なく口にした一言だった。
「は?お礼?」
「うん、マルコさんやサッチもだけど、イゾウさんには凄くお世話になってるから。何かちょっと捻ったお礼が出来ないかなぁって。例えばドッキリとか…?」
「面白れぇけど…相手はイゾウだしなぁ…あ、マルコちょっといいか?」
そうしていつの間にかマルコさんをブレーンに綿密な計画が練られ、ついに今日実行に移されたのだった。
「あー可笑しい。イゾウのあの顔、オヤジにも見せたかったよ」
「オヤジさん、ありがとう」
「かくれんぼはもういいのか?」
ニヤリと笑うオヤジさんは、相変わらずチャーミングで素敵。
「はい、そろそろ行かないと流石にイゾウさんに悪いし…」
「グララララ!そんなヤワな息子はモビーにいねぇよ」
「沢山話せて楽しかったです。また後で」
オヤジさんの覇気で、私の気配を隠して貰っていた。でもいつかの赤髪さんの時の様に具合が悪くなる様な事は無かった。
オヤジさん曰く"気配を相殺して中和"してたらしい。
うーん…覇気って奥が深いなぁ。
オヤジさんに頼むのは反則の様な気もしたけれど、万全を期したかったし久しぶりにゆっくりと話もしたかった。
それにオヤジさんでも巻き込まないと、流石にイゾウさんは騙し通せないからと、マルコさんの発案だった。
「じゃ、後はカナががんばんなよ」
「うん、ハルタもありがとう」
悪戯っ子顔のハルタとハイタッチを交わし、細心の注意を払いながら自分の部屋へと向かう。
きっと最後は私の部屋に来る、と言うマルコさんの予測通りだったイゾウさんはびっくりした顔で、今のところ計画が順調だと判って緩みそうになる口元を必死に抑える。
「あれ、イゾウさん」
「…カナ…?」
「どうしました?そんな顔して」
「いや、カナこそどうした??」
「え?ずっとここに居たけど…?」
鳩が豆鉄砲喰らった顔、っていうのはこういう事を言うんだ…と得心していたら、ずいっと目のにイゾウさんの顔が迫る。
「カナ」
「…は、い?」
「顔が笑ってるぞ?」
「え、うそ!?」
慌てて顔を隠そうとした手は素早くイゾウさんに取られ、曝け出された顔を正面から見据えられ耐えきれず目を逸らす。
「カナ、こっち見な?」
「…無理」
「カナー?」
「イゾウさんが横向いてくれたら……」
「それじゃ意味ねェよ。ほら、無理矢理向かされる前に、な?」
微かに聞こえる噛み殺した笑い声に目線だけチラリとイゾウさんに向けると、案の定絡め取られた視線ごとベッドに押し倒される。
「きゃっ…!」
まずいまずい、ここでイゾウさんに捕まる訳にはいかないんだ。
「わーん、ごめんなさーい!」
「マルコもハルタもグルか?」
「…オヤジさんも、た…隊長さんみんなも…」
オヤジさんの名前にイゾウさんは一瞬目を丸くして、それから少し何かを考えて小さく頷いてため息を吐いた。
きっと朝からのアレコレを思い返してるんだ。
私が知らないだけで、ハルタとかちょっかい出してそうだし…
それより、この状況を何とかしなくちゃ。
せっかくマルコさんが立ててくれた計画がダメになっちゃう。
どうしようかと考えあぐねていたら、タイミング良く船鐘が約束の時間を告げた。
「ね、イゾウさん」
思い切って首に手を回し、起き上がるついでにそっと頬にキスして耳元で呟いた。
「ちょっと甲板に出ませんか?」
…to be continued
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