うさぎのきもち
*現パロ/miho様リクエスト
くいもの処シリーズ
風邪気味なのを騙し騙しにしていたら、大きなプロジェクトが終わった途端に気が抜けて高熱が出てしまった。
医務室で少し休もうとしたらイゾウさんに見つかってしまい、強引にタクシーに押し込まれた私はイゾウさんの部屋で眠っている。
「ん…おかえりなさい…」
「ただいま。どうだ?まだキツイか?」
「だいじょぶです」
私の額に触れたイゾウさんの手は、外から帰って来たばかりで冷たくて気持ち良くて思わず目を瞑る。
「気にせずにサッチさんの所に食事しに行って下さいね?」
「カナは余計な心配すんな。何か食いたい物あるか?」
「んー…」
滅多に体調を崩さない私は、いざ何かと聞かれても何も浮かばない。
「あ、うさぎりんご…」
「食いたいのか?」
「いえ…風邪ひいた時だけ、父がうさぎに剥いてくれたの思い出して…」
「待ってな、適当に何か持って来る」
そう言ってキッチンに行ったイゾウさんの姿を見ながら、また少し微睡んでしまう。
毛布を掛け直される気配に目を開けると、りんごとお水を持ったイゾウさんがベッドに腰掛けて居た。
「…うさぎ…?」
綺麗に剥かれたりんごの中に、一匹だけ見えるうさぎりんごらしきもの。
確かに耳は二つ有るけど、左右の大きさは違うし、何とも絶妙なバランスの顔が……
必死に堪えようとした笑いはあっさりとイゾウさんにバレて、口元を隠した毛布を捲られる。
「何笑ってんだ」
「だって、イゾウさんにも出来ない事が有ったんだなぁって」
「…うさぎなんてやった事がねェだけだよ。食わねェのか?」
珍しく少しムッとした顔のイゾウさんが、歪なうさぎりんごを私の口元に寄せる。
「え、顔から…?」
「あぁ、カナはたい焼きも尻尾から食ってたよな」
「やだ…何でそんな事覚えてるんですか?」
出来れば歓迎したくない風邪だけど、普段と違う時間の流れがイゾウさんの新しい顔を見せてくれる。
風邪を移したら大変なので我慢したおやすみのキスの代わりにおでこにキスをされた幸せな記憶を最後に、私は静かに夢の中へと落ちて行った。
「カナ、カナちゃーん?」
控え目に私を呼ぶイゾウさんの声に目を覚ますと、甘い香りと口元に触れる何か。
「…え、うさぎ…?」
それは、私にキスをする一匹のうさぎりんご。
「すごい、綺麗な形…」
もしかしてイゾウさん、私が寝てる間にたくさん練習したんじゃ…
「イゾウさん」
「ん?」
「アップルパイとジャム、どっちを作りましょうか?」
「…両方になるかもだな」
「どれだけ練習したんですか…?」
「暇だっただけだよ」
珍しく少し照れた顔のイゾウさんが、今度はちゃんと尻尾側を私の口に寄せてくれる。
シャリっとした歯ごたえと甘酸っぱさが擽ったくて、イゾウさんへの愛しさが込み上げた。
「イゾウさん、風邪移したらごめんなさいね…?」
一応そう断ってキスしようとした私の口唇は、先にイゾウさんに捕まえられた。
fin.
リクエスト内容:くいもの処シリーズ、イゾウさんとヒロインの甘い日常。
ありがとうございました!
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