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わかりにくい、けどわかりあえる

東京湾さまリクエスト/サッチ

わやわやと賑やかなモビーの甲板で、その一角だけは他と違う空気を発していた。

大所帯の白ひげ海賊団の中でも数少ない、その中でもごく僅かな戦闘員の女性クルー達が輪になって何やらヒソヒソと話をしていたからだ。
時折上がる嬌声や悲鳴に、周囲の男性陣はソワソワと落ち着かない。

「…ホント、あの時のマルコ隊長はカッコ良かったんだー」
「えー、それならイゾウ隊長だって…」
「ウチの隊長だってあんな見た目して本当は凄い男らしいんだから!」
「あんな見た目とか…ハルタ隊長に聞かれたら怒られるよ?」
「そのギャップがいいんじゃん?」

…女性なんてどこの世界でもこんなモノで。

「てゆか、前から聞きたかったんだけど。カナはサッチ隊長の何処が好きなの??」

隊長自慢はいつの間にか好きな人の話になり、黙って聞いていたカナにも矛先が向けられる。

「え、何処って…」

改まって聞かれると、言葉に詰まる。

カナは確かにサッチが好きなのだが、沢山の男が居るモビーの中で隊長が好きだなんて、何だか王道過ぎてミーハーみたいで気が引けるというか、とにかく普段は余り口に出せずにいた。

それでも、サッチの事は本当に好きで。

「サッチは…色々凄くいいよ?」
「やだぁ、色々とか意味深ー!」
「でもサッチ隊長って付き合ったらベタベタに甘やかしてくれそうよね」

サッチをネタに勝手に盛り上がり始めたので「新しいお酒取ってくるね」と、カナはそっとその場から立ち去った。




とぼとぼと食糧庫へ歩く道すがら、カナはサッチの事を考えていた。


サッチは確かに優しい。
優しいけど…

「でも、違うんだ……」

サッチの優しさというのは、それはもう本当に心地良い温度で、カナに限らず家族皆をでろでろに甘やかす。
それなのに、こちらが少しでも踏み込もうとすれば途端に分厚い氷壁を張る。

それに気づいてしまったから…



人の少ない食堂の灯りは抑えられていて、普段よりかなり薄暗い。

「ずいぶんと盛り上がってんじゃねーの」

カナが食堂に来た目的なんて当然お見通しのサッチは、クスクスと笑いながら厨房の横に有る食糧庫から何本かの酒瓶を取り出してくれる。
勿論銘柄は、カナの好きな物。

「ありがとう」

素直に礼を言い受け取ると、くしゃりと頭を撫でられる。
何と無くそのまま戻る気分にはなれず、カナは手近な椅子に腰掛けた。

「サッチは行かないの?」
「ん?今日は騒ぐ気分じゃねーんだわ」

サッチはたまにこうして一人で過ごして居る時が有る。
特に甲板の定位置で一服している時のサッチには少し独特なオーラが有って、そこに気安く近寄る事は出来なかった。
きっとそうやって、表と裏のバランスを取って居るんだろうとカナは思っていた。

そう、今だってきっと…

「あ、じゃあ私……」

邪魔をしないようにとカナが立ち上がると、はしっと素早くサッチに腕を掴まれる。

「カナなら居ても構わねーよ?」

ドクン、と大きな鼓動が一つ。
そしてそれを追う様に、掴まれた腕から熱が全身に広がる。

「で、でもっ…!あ、もしかしてサッチ酔ってる?」

思わぬサッチの一言に膝が小さく震え出したカナは、へにゃりと崩れる様に元の椅子に腰を下ろした。

「酔ってねーし。俺の事は気にすんなっての。カナは素直に俺に甘やかされときゃイイの」
「やだサッチ、何言ってるの」

煙草を咥えて「別にー?」と言いながらサッチがへラリと笑うと、目元の傷もくしゃりと歪む。
家族を護って負ったというその傷も、ゴツゴツして大きな手も、他ではまず見ない立派なリーゼントも。

「…好き」

無意識に口に出してしまい、カナは慌てて手で口を押さえるが、一度洩れた言葉は返ってこない。
あわあわと耳まで真っ赤になったカナを見てクッと喉で笑ったサッチは、煙草に火を点けようとしていた手を止めて真っ直ぐカナを見て口を開く。

「…俺もカナ好きよ?」
「は…?」

予想外のサッチの言葉に、上がりかけた熱は不思議な事に急激に下がってゆく。

「サッチの好きは、家族の好きじゃん…」

ぎゅっと心が締め付けられる感覚に、カナは思わず胸元に隠れているオヤジの誇りに触れる。

「私のは、違うんだから…」

いつもはノリで抱き付いたり、つい茶化してしまったりしてばかりのカナだったが、本気でサッチが好きだ。
何処がとかそんな事はどうでもいい位、とにかくサッチが好きだった。

「カナも壁作ってっからなぁ…」
「え…?」
「カナも意外と、自分出さねぇだろ?いつもみんなに合わせて騒いだりしてっけど、アレお前の素じゃねーよな?」
「サッチ……」

何でそんなに私の事が分かるの?と、聞きたかったが、胸の奥から込み上げるものが邪魔をして言葉にならない。

「だからカナは好きよ?居ても邪魔になんねーしな」

弄んでいた煙草に火を点け、ゆっくりと紫煙を吐き出したサッチは、器用にテーブルの縁で酒瓶の栓を抜く。

「サッチ…私もここで飲んでいい?」

返事は無く、代わりに手にしていた酒瓶を掲げて来たので、慌ててカナも栓を抜きカチリと重ね合わせる。


ま…いっか……


カナは並べた酒瓶越しに歪に映るサッチを見ながら思う。

サッチの好きがどういう好きなのか結局よく分からないままだが、こうして二人で黙って飲んでいるのは、ものすごく心地良かった。


ゆっくり酒瓶を一本ずらすとその向こうでサッチは静かに笑っていて、カナも黙ったまま笑い返した。


fin.
リクエスト内容:カッコいい(ここ重要)隊長ッチとの甘く切ないひと夜!


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