Hit plan | ナノ

答えたら愛して

13万hit ミナミ様リクエスト

「おう、カナおはよう」
「サッチ隊長、おはようございます」
…ぽんぽん
「エース隊長!今日こそちゃんとシーツ出して下さいね!」
「あ、わりぃ。明日な!明日!」
…わしゃわしゃ
「マルコ隊長ー」
……ぽすん
「ジョズ隊長ー…」
………ぽん


カナの一日は、概ね毎日この調子だ。

雑用係としてモビーに乗っているカナ。
無骨な男たちの中、女性にしても小さなカナは、良くも悪くも良く目立つ。
一日中ちょこちょことモビーを駆け回るその姿は一部隊員たちの間で、ある種清涼剤の様な存在になっていた。


「そんなに子供じゃないんだけどなぁ…」


隊長たちに話しかけると、必ずと言っていいほど毎回、頭を撫でられる。
高さが丁度良いのか、カナの雰囲気がそうさせるのか…あのマルコまでがその調子なのだから、これはもう、よっぽどの事だ。



「イゾウ隊長、これマルコ隊長からの預かり物です」
「あァ、ご苦労さん。ついでで使って悪ィが、これをビスタに届けて貰えるか?」
「ビスタ隊長ですね。了解です」

……。

チラリとカナの方を一目だけ見て、そのままイゾウが机上の書類に目線を戻したのを合図に、カナはそっと部屋を辞した。

(イゾウ隊長…)


イゾウだけは例外だった。
イゾウだけが、どんな時でもカナの頭を撫でる事をしなかった。
目は合わせてくれるし、たまには優しい言葉も掛けてくれる。嫌われては…いないと思う。いや、もしかしたら好き嫌い以前の存在なのかもしれない…

(雑用の私なんかとは、一線引いてるのかなぁ…)

もちろん雑用とは云え、自分の仕事にも白ひげの船のクルーである事にも、誇りは持っている。それでもこうやって自分を卑下せずにはいられない。“そういう”後ろ向きの思考で言えば、そもそも隊長と自分を釣り合わせようなどと云う考え自体が間違っている事は重々承知しているのだが…

(なんか私、イゾウ隊長の事ばかり意識してる…?)

いつから?
自覚してしまえば、それが心の中で形を成すのは早い。

そうなれば益々、イゾウだけがカナに触れてくれない事がもどかしくなる。
隊長たちに優しく頭を撫でられる度にキュッと鳴く心を抑え、カナはなるべくイゾウを気にしない様に努めて日々の任務をこなしていった。



* * *




(ううぅ…何でこんな事に……)

動けない。
その原因は背後から羽交い絞めにされ、視界の隅に光る物が見えているから。
誰にと云えば見知らぬ海賊に――



その日カナは、モビーの少し奥深くに在る倉庫の整理をしていた。
長年使われていない武器に生活用品、よく分からない変な物。基本的には殆どが捨てる物だったので、必要な物だけを両手に抱えて運び出した。

(あれ…?)

モビーの空気が少し違う気がした。覇気なんて無いし、気配を読むことも出来ない。それでも長く居れば何となく分かる、そんな程度の違和感。
「んー」と訝しみながらも、特に報せは受けていないのでそのまま少し騒がしい甲板への扉を身体で押し開けると――コツン、と何かに当たって扉が止まった。そこに居たのは品の悪さから一目でモビーのクルーでは無いと分かる、見知らぬ男。
戸惑う間も無く、カナは男の腕に抱えられていた。バサリ、と手にしていた荷物が散らばる音で我に返り、ようやく状況を理解して青ざめる。

「あ…」

敵襲の真っ最中だ。

あろう事かカナは“人質”になってしまったのだ……



敵襲の鐘に気付かなかった間抜けな自分の事なんてどうぞ見捨てて…と願うが、雑用係とは云え家族の一員、そう簡単に見捨ててはくれないだろう。それが分かってしまうだけに、恐怖より申し訳ない気持ちで泣きそうになる。

(うー…みなさんごめんなさい…)

ぐるりと甲板を見渡せば、心配そうに、或いは卑劣な手に出た男に対し苦々しく状況を見守る見知った顔。

マルコ・サッチ・ハルタ…そして後方に居たイゾウとは目が合った。確かに絡んだと思ったのに…険しい顔で睨まれ、背を向けられてしまう。敵襲の最中にへらへらしていたらそれはそれでどうかとも思うが、あんな顔をしなくたって…

「私なんか人質にする価値もないよ…」

言ってしまってカナは、ずうぅん…と一気に落ち込んだ。その言葉が聞こえたのか落ち込みっぷりを哀れに思われたのか、拘束の力が僅かに緩められたのを隊長たちは見逃さなかった。
カナの頭の十数センチ横を何かが掠め、え?と思う間も無く、次の瞬間カナはハルタの腕の中に居た。顔を上げればカナを拘束していた男は肩から血を流し、サッチに組み敷かれている。その先は…見たいモノでも無いので…顔を背けハルタに向き合った。

「ありがとう…ございます、すみませんこんな…」
「カナは悪くないでしょ。見張りの伝達の手際が悪かったんだ。お蔭で甲板にまで侵入されるとか…マジありえない。自分で立てる?」
「あ、はい…」

これ以上迷惑は掛けられないし、心配もさせたくない。微かに震える膝に喝を入れ、何とか自力で立つ。

「あんな雑魚海賊に侵入許すとか、こりゃ当分マルコの機嫌わりーな」

コキコキと首を鳴らし、愛刀を納めながら普段と変わらない顔で戻って来たサッチは、言葉とは裏腹に何だか楽しそうだ。

「カナ怪我してねーか?ったく、イゾウの奴無茶しやがって」
「腕は信用してるクセによく言うよ」
「え?イゾウ隊長…?」
「あいつ今日は仕事したよなぁ。いつもそんくらい働けってんだ」
「…好き勝手言ってんじゃねェよ」

ガツンと銃把の落とされる音と「いて!」と云うサッチの悲鳴が同時に聞こえた。いつの間にか後ろに居たイゾウを振り返れず、カナは視線を床に落とす。
わちゃわちゃと賑やかな隊長たちの声を聴いていると、さっきまでの敵襲が嘘みたいに思えた。
隊長たちからすれば本当に、どうって事はない些細な出来事だったのかも知れない。でもカナにとっては…

非戦闘員の自分は、戦闘が起きたらとにかく身を潜めて周囲の手を煩わせない事、それを心掛けて今までやって来た。今回はどうやら敵襲の報せが行き届かなかった様だが、それでも結果として迷惑を掛けたことに変わりはない。
自分の仕事にも、モビーのクルーである事にも誇りを持ってやって来た分、今回の出来事は……カナの心に暗い影を落とし始める。

「…イゾウさ、あんま回りくどい事やってると、逃げられちゃうよ?」

ぽんぽんとカナの頭を撫でながらそう言い残し、ハルタは後処理の為に場を離れた。鉄槌の落とされた頭を未だに擦るサッチもその後に続く。
残されたのはイゾウとカナの二人。
先刻のイゾウの表情が網膜から離れず、カナは真っ直ぐにイゾウを見ることが出来ない。

「イゾウ隊長は…良いんですか?行かなくて」

黙って立っている訳にもいかず、ふと気になった事を口にして、大事な事をまだ言っていなかった事に気付く。

「あ、あの、ご迷惑かけてすみませんでした…」
「迷惑じゃねェが…迷惑かけたからモビーを降りる、とか考えてたんじゃねェよな?」
「……考えて…ました」
「下らねェな」
「そんな、バッサリ切らなくても…」

イゾウの言葉にしゅんと肩を落とし眉を下げ、怯えた小動物のようにチラチラとイゾウの様子を伺うカナ。冗談ではなく、本当に逃げ出しそうだ。
ハルタに言われるでもなく、そんな事は分かってるのだ。
キュッと口を引き結び何かを湛えた瞳で自分を見るカナを気にし出したのはいつからだったか。その顔が見たくてつい、触れるタイミングを逃したまま今日まで来てしまった事は…。

「その顔は嫌いじゃねェんだが…そういう顔させたい訳でもねェしな…」
「え…?」

足を踏み出したイゾウに思わず身構えたカナの頭の上に、ぽすんと乗せられたイゾウの手。焦がれ続けたそれは、大きくて、思っていたより温かい。今まで散々隊長たちに同じ事をされ続けて来たのに、感じる気持ちは全く別物だった。
ぽかん、と気の抜けた顔でカナはイゾウを見上げる。

「…何だよ、いつも皆にされてんじゃねェのか」
「だって、イゾウ隊長は今まで一度も…それにさっき…」

怖い顔で…と言おうとして言い淀んでいると、察したらしいイゾウは小さく嘆息し、くしゃりと頭を一度撫でた。

「敵はカナに見えてる奴だけじゃねェからな…俺は俺の仕事をしただけだ。カナを見捨てる訳がねェだろ」
「はい…?」

ぐるぐると頭の中を駆け回るイゾウの言葉に、カナは追いつけない。
さっきからイゾウは何を言ってるのだろう?頭に触れている事といい、どうにもいつもと様子が違う。
ほら今だってまた、ぽんぽんと優しく頭を撫でて……

「俺はお前さえいれば何もいらない。好きだ。だからカナ、どこにも行くな」
「は、…い…?え??」

何て言った…?す、き…好き…?都合のいい聞き間違いをした気もするし…でも確かにそう聞こえて……
想像すらした事の無いど直球の告白に、カナの思考は音を立ててショートする。へなへなとよろけながら後ずさるカナの腕を、はしっとイゾウが捕まえた。

「カナ?おい、カナ?」

く、と腰を曲げて視線の高さを合わせたイゾウに覗き込まれ、端正な顔が真正面に迫る。その距離と熱に耐え切れず、カナは思わず顔を背け両手を突き出し距離を取ってしまう。

「あ…っ、その、」

拒絶した様な態度に文句を言われるかと思ったが、聞こえたのはククッと云う笑い声。恐る恐る見上げたイゾウの表情は至極穏やかで楽しそうだ。
トクン、と一層大きく跳ねた心臓に、掴まれたままの腕から伝わる熱が増す。

「ったく…仕方ねェな。で、人の話は聞いてたのか?」
「っ…聞いてました」

問われ、改めてイゾウの言葉をしっかりと心に、耳の奥に刻んだ。声も温度もすべて、いつでも何度でも思い出せるように。

「じゃァ返事は?」
「行かない…行きません、だから…」

ぷすぷすと燃え尽き灰になった神経を必死にかき集め、カナは今度こそ真正面からイゾウを見上げる。


「これからもずっと…頭撫でて貰えますか?」


ぽすんと頭をひと撫でしたイゾウの手が、するりとカナの頬に下がる。

「それだけで――いいのか?」
「・・・・!?」





それから暫くして、カナの頭を撫でるのはオヤジを除けばイゾウだけになった。
少し寂しさと物足りなさを感じるも、恐らくイゾウが裏で睨みを利かせたのだろう――そう思えばふふっと緩む頬を、甲板いっぱいに広がる洗濯物の波間にそっと隠した。

fin.
リク内容:イゾウさんに頭をぽんぽんされて『お前さえいれば何もいらない。好きなんだ。だからどこにも行くな』と言わせたい。切甘で。
ミナミ様、ありがとうございました!


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